色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第72回 マイナンバーの提供を拒まれたら

2015/12/01

 行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(いわゆるマイナンバー法)に基づく個人番号通知カードの送付も年内には終わり※1、いよいよ来年1月以降、マイナンバー制度の運用が開始されます。

 源泉徴収票や支払調書等の法定調書の様式も改訂※2され、支払を受ける者及び支払者の個人番号ないし法人番号記載欄、控除対象扶養親族の個人番号記載欄等が設けられました。したがって、来年1月以降に支払を行う場合、法定調書に、受取人の個人番号(いわゆるマイナンバー)等を記載する必要が生じます。

 そのため、多くの企業において、マイナンバーに関する特定個人情報の取扱規程を設け、その中で、従業員に対して、マイナンバーの提供を求めることとしています。さらには、従業員に対し、その提供の要求に応じることを規定している例もみられます。

 しかし、マイナンバー法には提供の要求を受けた本人についてこれに応じなければならない旨の定めはなく、税法等※3においても、扶養控除等申告書※4等に個人番号を記載することが義務付けられた※5ものの、これに違反した場合の罰則等は定められておりません。

 しかも、マイナンバー法自体について反対する意見も根強いようですし、現に、自己に配達された個人番号通知カードを、NET上に公開した人物がいます※6。

 このように、会社が従業員にマイナンバーの提供を求めても、すべての人がこれに応じてくれるとは限りません。それでは、応じてくれなかった場合に、どうすればよいのでしょうか。

 給与等の支払者は、税法等の定めにより、法令等に適合した法定調書を作成し、税金を徴収して納付すべき義務があります。そうすると、マイナンバーの記載がない法定調書は法定記載事項を欠いた調書ということになります。

 このような法定調書を税務署に提出した場合、これを受理してもらえるのでしょうか。

 結論からいえば、受理はしてもらえるようです※7。ただ、なぜ記載がないのかと、その理由を尋ねられることになるようです※8※9。したがって、その際に答えられるよう、会社としては、義務を尽くしたと主張できるようにしておくことが必要です。従業員に対してマイナンバーの提供を求めた経緯等(その時期、方法、拒絶されたのち、再度の提供の求めとその方法など)について、記録と資料を残しておくことが必要です※10。

 なお、マイナンバーに関する特定個人情報の取扱規程の制定とともに、会社の就業規則を改定し、会社のマイナンバーの提出要求に応じることを義務付ける例もみられます。このような場合、提出要求に応じなかったとして、就業規則違反の懲戒処分ができるでしょうか。

 前述したように、マイナンバー法には提供の要求に応じなければならない旨の定めはなく、税法においても、申告書等に個人番号を記載しなかった場合の罰則等は定められておりません。また、反対意見が根強く、訴訟リスクもあることなどを考慮すると、社会通念上相当と認められるよう※11マイナンバーの運用が定着するまでは、懲戒処分自体は見合わせたほうがよいように思います。

 


※1当初、11月末までには送付が終わる予定であったが、かなり遅れている様子である。

※2国税庁・法定調書様式・平成28年分以後使用予定の様式

※3国税通則法124条参照。

※4毎年最初に給与等の支払を受ける日の前日までに、法定の記載事項を記載した申告書を、支払者を経由して所轄税務署長に提出しなければならない。所得税法194条

※5 所得税法施行規則73条

※6これに対して、平成27年10月27日付けで、特定個人情報保護委員会から、マイナンバー法19条(特定個人情報の提供の制限)に違反するおそれがあり、これをプリントアウトすると、20条(収集等の制限)違反になるおそれがあると注意喚起されています。

※7国税庁・番号制度概要に関するFAQ・Q2-3-2

※8 国税庁・法定調書に関するFAQ・Q1-5、Q1-6

※9マイナンバーの記載がない法定調書が提出された場合、税務署はどうするのでしょうか。おそらく、他の個人番号利用事務実施者か地方公共団体情報システム機構に対して、個人番号の提供を求めるものと思われます。マイナンバー法14条参照。

※10国税庁・源泉所得税に関するFAQ・Q1-18

※11 労働契約法15条参照。

執筆者:中村 隆次

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