色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第73回 改正派遣法における「組織単位」とは?

2015/12/16

 改正派遣法が9月30日に施行され,依頼者の方から個人単位の期間制限に関して「組織単位」とはどの範囲の組織のことを指すのかというご質問をいただくことがある。旧派遣法における自由化業務の期間制限との関係で「組織の最小単位」という概念があったが,何が違うのか。以下のとおり少し整理してみたが,実際の会社において「組織単位」はどの範囲なのかという当てはめがなかなか難しい。

 

 旧派遣法40条の2は「派遣先は、当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所ごとの同一の業務(・・・)について、派遣元事業主から派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けてはならない。」と規定し,「同一の業務」とは旧業務取扱要領によれば,「・・・派遣先における組織の最小単位において行われる業務は、同一の業務であるとみなすこと。なお、この場合における最小単位の組織としては、業務の内容について指示を行う権限を有する者とその者の指揮を受けて業務を遂行する者とのまとまりのうち最小単位のものをいい、係又は班のほか、課、グループ等が該当する場合もあり、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものとすること。」とのことである。「組織の最小単位」(赤字及びアンダーラインは筆者による)とは要は指示する人と指示されて働く人がいる最小の組織ということになり比較的分かりやすい。常用労働の代替化(派遣社員が正社員の仕事を奪ってしまうこと)を防ぐために,旧法においては,このように細分化された組織において期間制限を設けたのである。

 これに対して,改正派遣法40条の3は「派遣先は、・・・・当該派遣先の事業所その他派遣就業の場所における組織単位ごとの業務について、派遣元事業主から三年を超える期間継続して同一の派遣労働者に係る労働者派遣(・・・)の役務の提供を受けてはならない」と規定し,「組織単位」とは業務取扱要領によれば,「事業所等における組織単位については、法第40 条の3の期間制限の目的が、派遣労働者がその組織単位の業務に長期にわたって従事することによって派遣就業に望まずに固定化されることを防止することであることに留意しつつ判断することになる。具体的には、課、グループ等の①業務としての類似性や関連性がある組織であり、かつ、②その組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有するものであって、派遣先における組織の最小単位よりも一般に大きな単位を想定しているが、名称にとらわれることなく実態により判断すべきものである。ただし、小規模の事業所等においては、組織単位と組織の最小単位が一致する場合もあることに留意する必要がある。」(赤字,アンダーライン及び①②は筆者による)とのことである。この解説からも分かるように,改正法による個人単位の期間制限の目的は,常用労働の代替化の防止ということよりも,一人の派遣労働者が同じ部署で似た仕事を長期間にわたって従事させられることによってキャリアアップが図られないという事態を防止するということに重きが置かれている。

 例えば,「営業部」のもとで「A事業営業課」「B事業営業課」があり(しかもA事業・B事業というのは全く違う種類のものであるため営業手法等も異なる),それぞれの営業課のもとで「東日本担当」「西日本担当」があり,「東日本担当」「西日本担当」が旧法における「組織の最小単位」であった場合,旧法下においては自由化業務は「東日本担当」「西日本担当」というレベルで期間制限がかけられていた(例えば,同じ派遣社員が「A事業営業課・東日本担当」に3年間→「A事業営業課・西日本担当」に3年間という働き方も可能な場合あり)。改正後においては,同じ営業課内において「東日本担当」でも「西日本担当」でも営業担当エリアが違うだけでやっている業務はほぼ一緒ということであれば,派遣社員が同じ営業課の「東日本担当」から「西日本担当」に移ってもキャリアアップは図れないから,「A事業営業課」「B事業営業課」というレベルで個人の期間制限がかかることになる(例えば,同じ派遣社員が「A事業営業課・東日本担当」に3年間→「A事業営業課・西日本担当」に3年間という働き方は不可。「A事業営業課・東日本担当」に3年間→「B事業営業課・東日本担当」に3年間であれば可能)。

 キャリアアップのための期間制限ということであれば,「組織単位」については,①「業務としての類似性や関連性がある」という要件だけでいいと思われ(但し,同じような仕事をしているとキャリアアップが図れないというのが実態に即した考え方なのかは疑問が残る),②「組織の長が業務の配分や労務管理上の指揮監督権限を有するもの」という要件が必要になる理由ははっきりしない(異なる指揮命令系統で働けばキャリアアップになるのか?)。また,どの程度の業務の類似性,関連性があれば①の要件を満たすのか,上司がどの程度の権限があれば②の要件を満たすのかも不透明で,実際の会社において「組織単位」がどの範囲の組織を指すのかの当てはめがなかなか難しい。特に②の要件については上記のとおりキャリアアップを図るという目的との関連性が不明であることから,どのような観点・視点で②の要件を解釈すべきか悩ましい。

 

 派遣法改正法案が9月11日に成立し,わずか19日後(同月末日)の施行直前まで業務取扱要領の改訂がなされないなどのドタバタの中で「組織単位」に関する正確な理解ができないまま10月1日に改正法に基づいた派遣契約書の作成を余儀なくされた会社も多いのではないか。上記のような定義の不透明さもあってか,「組織単位というのは,『課』『グループ』という名称がついた組織」と誤った解釈をしている方もいらっしゃる。法40条の3(個人単位の期間制限)に違反して,3年を超えて派遣労働を受け入れてしまうと,労働契約の申込みをしたとみなされてしまう(法40条の6・1項4号)など「組織単位」に関する判断を誤ったときの影響は大きい。「組織単位」というのはどの範囲の組織を言うのかについて,Q&Aなどにより早急に実務上の指針が出されることが望まれる。

                                      以 上

執筆者:田辺 陽一

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