色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第74回 遺産分割をめぐって Part1 相続人について

2016/02/19

我が国で亡くなる人は、最近では年間125万人から130万人程度です[1]。このうち、遺産分割調停として家庭裁判所に申し立てられる件数は年間1万3000件程度[2]です。しかも、調停ないし審判により遺産分割が成立した件数のうち、75%が遺産総額5000万円以下の事件[3]です。遺産分割というとお金持ちの争いのように思われがちですが、現実はそうではないのです。

昨年、「遺産争族」というテレビドラマが放送されましたが、まさに、遺産を巡って親子・兄弟・姉妹が醜い争いを裁判所で繰り広げることもあるのです。

そこで、いざという時に備えて、この遺産分割の実務について分かりやすくまとめたのがこのコラムです。Part1からPart6までのシリーズものになっておりますので、合わせてお読み頂ければ幸いです。

 

遺産分割調停においては、まず、誰が相続人であるかが問題となります。相続人(まれに包括受遺者を含む。)でなければ、遺産分割調停の当事者となれないからです。

例えば、被相続人が死亡直前に婚姻したような場合、子供達がその婚姻を無効だ(被相続人は、婚姻当時意思能力がなかった等)と主張することがあります。

このような場合には、遺産分割調停の申立とともに婚姻無効の調停の申立[4]がなされることになります。そして、調停の中で当事者間の合意が成立すれば、申立の内容に応じて調停ないし審判により簡易迅速な解決が図られます。しかし、合意が成立しない場合、婚姻無効確認の訴え[5]が提起されることになり、その決着がなされるまで遺産分割調停は進行しないことになります[6]。

 

兄弟間で相続争いが生じ、一方が、亡くなった父親と他方との親子関係を争ったようなケースもあります。このような場合、父親は既に死亡しており、父親と子供達との父子関係についての鑑定はできません。しかし、父親の兄弟が存命中であれば、その協力を得て、伯父(叔父)甥関係の確率が何パーセントかというDNA鑑定を実施することは可能です[7]。

 

また、被相続人に多額の負債があるような場合、相続人は、相続放棄をすることもできます。相続放棄[8]をすれば、相続人にならなかったことになるため、遺産分割から除外されます。また、いったん相続した後、その相続分を放棄[9]したり、他の相続人に譲渡[10]することもできます。このような場合には、調停の当事者を明確にするため、調停からの脱退手続がとられます。

 

遺産分割調停の当事者の中には、被相続人が入院していた病院へ一度も見舞いに行かず、介護も他の相続人に押しつけていながら、法律上の権利のみ行使する者もいない訳ではありません。

もちろん遺産分割を要求するのは相続人の権利ではありますが、本来、権利は義務や責任を伴うものです。権利行使もほどほどにと思うのは、私だけでしょうか。

「シリーズ~遺産分割をめぐって~」
Part1 相続人について
Part2 遺言について
Part3 遺産分割の対象について
Part4 特別受益について
Part5 寄与分について
Part6 遺産分割の方法について

                                            以上


[1]平成17年以降、死亡数が出生数を上回るようになっており、この2,3年では、年間30万人近く、人口が減少しています。厚生労働省の人口動態統計より

[2]平成26年最高裁判所・司法統計年表家事編第4表

[3]平成26年最高裁判所・司法統計年表家事編第52表(総数8664件のうち、1000万円以下が2764件、5000万円以下が3725件)

[4]人事訴訟は調停前置とされており、訴えを提起する前に、まず、調停を申し立てなければならないことになっています(家事事件手続法257条)。

[5]相続人に関する人事訴訟として、婚姻無効確認の他に、①婚姻の取消し、協議離婚の無効・取消し、婚姻関係の存否確認、②嫡出否認の訴え、認知の訴え、認知の無効・取消し、父を定める訴え、実親子関係の存否確認、③縁組みの無効・取消し、離縁の無効・取消し、養親子関係の存否確認などが考えられます。

[6]現実には、調停・審判の取下げ勧告がなされます。

[7]例えば、次男が叔父の甥である確率は85%、長男が叔父の甥である確率は15%などといった鑑定結果が示されます。

[8]相続放棄は、相続があったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所宛に行わなければなりません。民法915条

[9]相続分の放棄がなされると、他の相続人の相続分が増加することになります。しかし、相続放棄とは異なり、相続人であることには変わりがありませんから、相続債務自体は負担することになります。

[10] 相続分の譲渡がなされると、譲受人の相続分がそれだけ増加することになります。

執筆者:中村 隆次

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