色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第79回 公正証書をよく利用するケースについて

2016/05/23

 弁護士として仕事をする中で,公正証書を見ることはよくありますし,公正証書の利用を検討することもあります。公正証書とは,公証人が当事者の嘱託に基づいて法律行為その他私法上の権利に関する事実について作成した文書(公証人法1条1号参照)のことをいいますが,その種類や利用目的は様々です。そこで,以下では,公正証書がよく利用されるケースについて,概説してみたいと思います。

 

1 執行証書(民事執行法22条5号)

  金銭の請求(※1)について一定の要件を満たす公正証書を作成しておけば,そ
 の公正証書に基づいて強制執行を行うことができます。このような公正証書を執行
 証書といいます(民事執行法22条5号)。

  裁判手続を経ることなく強制執行が可能であるという点が最大のメリットです。
 そこで,契約を締結する際に相手方の債務不履行に備える必要がある場合におい
 て,単なる私製の契約書を作成するのではなく執行証書の利用を検討することが
 あります。

  執行証書の注意点は,あくまで金銭の請求に限られるということです。不動産の
 明渡し請求等について,公正証書を作成しても,その公正証書に基づいて強制執行
 を行うことはできません。金銭の請求以外について裁判手続を経ることなく強制執
 行を可能にするためには,訴え提起前の和解(即決和解ともいいます。民事訴訟法
 275条)を利用することになります。

 

2 公正証書遺言(民法969条)

  遺言者は公正証書によって遺言をすることができます(民法969条)。このよ
 うな公正証書を公正証書遺言といいます。遺言は自筆によってもすることができま
 すが(民法968条),公正証書遺言の場合,①専門家が関与するので,後に遺言
 の形式や内容等による争いが生じにくく,②遺言書の原本は公証役場に保管される
 ので,遺言書の滅失・改ざんの心配がなく(※2),③家庭裁判所での遺言書の検
 認も不要である(民法1004条2項)というメリットがあるため,広く利用され
 ています。弁護士が関与して遺言書を作成する場合には,公正証書遺言を利用する
 ことが最も多いのではないでしょうか。

  一方,デメリットとしては,①自筆遺言と比べると手間や費用がかかってしまう
 こと,②作成に証人の立ち合いが必要なため,遺言の存在やその内容を完全に秘密
 にしておくことができないこと(※3)が挙げられます。

 

3 事業用定期借地権の設定(借地借家法23条3項)

  借地借家法23条1項又は2項に規定する借地権(一定の存続期間において専ら
 事業の用に供する建物の所有を目的とする借地権ですので,事業用定期借地権とい
 います。詳しい内容は条文をご確認ください。)の設定を目的とする契約は,公正
 証書によってしなければなりません(借地借家法23条3項)。

  平成19年の借地借家法改正により,事業用定期借地権の存続期間は10年以上
 20年未満から10年以上50年未満に改正されました。そして,30年以上の場
 合(同条第1項)と10年以上30年未満の場合(同条第2項)とでその内容が異
 なっております。ご注意ください。

  なお,一般定期借地権(同法22条)や定期建物賃貸借(同法38条)について
 は,公正証書の利用が要件にはなっていませんが(※4),契約内容を明確化する
 ために公正証書を利用する場合もあります。

 

4 任意後見契約公正証書(任意後見契約に関する法律3条)

  任意後見契約とは,本人が精神上の障害により事理弁識能力が不十分な状況にな
 った場合に備えてそのような状況下における本人の生活,療養看護及び財産の管理
 に関する事務等を事前に委託しておく契約のことです(任意後見契約に関する法律
 2条1号参照)。この任意後見契約は法務省令で定める様式の公正証書によってし
 なければなりません(同法3条)。このような公正証書を任意後見契約公正証書と
 いいます。

  任意後見契約は,本人の将来の生活,療養看護及び財産の管理を託す人物を自ら
 選任することができるという点で,法定後見制度(後見・保佐・補助)よりも本人
 の意思を尊重することができます。平成12年より開始していますが,今後ますま
 すの利用が期待されています。

 

5 事実実験公正証書(公証人法35条)

  事実実験公正証書とは,公証人が聴取した陳述や目撃した状況その他実験した事
 実について作成される公正証書のことです(公証人法35条)。ここでの事実は,
 私法上の権利の得喪変更に直接又は間接に影響を及ぼすものであればよいとされて
 います。

  具体的な活用例として,以下のものがあります。

 ①知的財産権侵害物件に関する証拠を保全するために,侵害物件の入手経緯を記録
  したり,取得時点における侵害物件の品質・形状・構造・作用効果等を記録す
  る。

 ②貸金庫を借主以外の者が開扉する必要が生じた場合(例えば,借主が使用料を支
  払わなかったり,借主が死亡した場合)に,その経緯や開扉・閉扉の状況を記録
  する。

 ③本人が尊厳死を望んでいる場合に,その真意を保証するため,本人の供述を記録
  する。

 

6 参考文献

  上記例以外にも公正証書を利用する事例は多数あるかと思います。公正証書につ
 いて,より詳しく知りたい方は以下の文献やHPをご参照ください。

 ・吉田直昭編「公正証書・認証の法律相談〔第四版〕」

 ・日本公証人連合会HP(http://www.koshonin.gr.jp/index2.html)

 

 ※1 正確には「金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求」(民事執行法22条5号)です。

※2 滅失・改ざんの心配がないとの点は,公正証書遺言に限らず広く公正証書一般にも当てはまります。ただ,遺言はよく滅失・改ざんが問題となるため,公正証書遺言のメリットとして挙げられることが多いです。

※3 弁護士やその事務職員が証人となることは禁止されておりませんし,公証役場によっては証人として相応しい方(士業関係者や裁判所等を退職された方等)をリストアップした証人候補者リストを用意しているようです。このような方法を利用することで,事実上秘密を確保することが可能となっているので,デメリット②の重要性は相対的に低下していると思われます。

※4 条文は「公正証書による等書面によってしなければならない」(同法22条),「公正証書による等書面によって契約をするときに限り」(同法38条)とされており,公正証書が例示として挙がっています。

執筆者:有岡 一大

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