色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第81回 遺産分割をめぐって Part2 遺言について

2016/06/20

1 最近は、遺言を作成する人が増えています。遺言には、普通方式の遺言*1とし
て、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言があり、特別方式の遺言*2とし
て、死亡の危急に迫った者の遺言などがあります。遺産分割調停においても、遺
言の効力や内容についてよく争われます*3。

 

2 遺言の効力について、一番争われるのは、作成時に遺言者に判断能力がなかった
というものです。特に、入院中や死亡直前の遺言の場合には、要注意です。このよ
うな場合には、作成時の状況をビデオや動画で撮影したり、主治医の判断を仰ぎ、
診断書を作成してもらうなど、後日問題とならないようにすべきです。

調停において、遺言の効力について当事者間の合意が成立すれば、その合意内容
を前提として調停ないし審判がなされます。しかし、合意が成立しない場合、遺言
無効確認の訴えが提起され、その決着がなされるまで遺産分割調停が進行しないこ
とになる場合があるのは、前回指摘*4したとおりです。

遺言無効確認の訴えが提起されると、病院のカルテを提出したり、主治医の尋問
がなされるなど、まるで医事裁判の様相を呈することになります。

 

3 遺言は、方式ごとに形式が決められています。この形式を満たさないと遺言とし
ての効力がありません。

自筆証書遺言*5では、全文、日付、氏名を自書したうえで、押印しなければなり
ません。

全文の自書ですから、パソコンやワープロで作成してプリントアウトした書面で
は無効になります。他人の介添えを受けた場合*6やカーボン複写の場合*7に有効と
された例はありますが、やはり問題とされないように、上手でなくても自分で書く
必要があります。

日付は、作成日を記載することになりますが、作成に何日もかかったような場合
には、最終日(完成日)を記載すべきです。暦の日付ではなくても、作成された日
が特定できればよい*8とされています。

氏名は、作成者が分かればよい*9訳ですから、ペンネームや芸名でも差し支えな
いことになります。

押印も実印で行う必要はありません。誰の印鑑であるかが分かればよいとされて
いますし、拇印*10も認められています。

 

4 遺言を作成中に書き損じた場合*11には、訂正箇所に二重線を引くなどして正し
い記載を行い、署名の上、訂正印を押すことが必要です。遺言を作成した後、気が
変わって内容を変更したい場合には、改めて作成する必要があります*12。この場
合、前の遺言を破棄することが多いと思いますが、もしも、複数の遺言が存在する
場合には、日付が後の遺言の内容が優先*13します。

 

5 遺言は、作成者の意思表示ですから、その内容の解釈は、記載自体を形式的に解
釈するのではなく、作成当時の事情や遺言者の置かれていた状況などを総合考慮し
て、その真意を探求することになります*14。そのため、遺言の内容を巡って、調
停の席で、遺言者の真意はこうであったなどと、当事者が互いに言い合いをするよ
うなことも多く見られます。ですから、解釈の余地がないように明確に記載するべ
きです。

 

6 多くの遺言で見られるのは、特定の財産を特定の相続人に「相続させる」*15と
記載したものです。この場合には、その財産を特定の相続人に単独で相続させよう
としたもの(遺産分割の方法の指定*16)と解釈されており、相続が発生すると当
然にその財産は、当該相続人の所有になるとされています*17。したがって、その
財産は遺産分割の対象にはなりません。これに対し、「一定割合を相続させる」と
いう遺言は、相続分の指定*18と解釈されており、遺産分割が必要となります。

 

7 遺言者が亡くなった場合、公正証書以外の遺言の保管者は、遺言を家庭裁判所に
提出して検認という手続を受けなければなりません*19。したがって、遺言がどこ
に保管されているか明らかでないと、検認手続はもとより遺言の存在を抜きにして
遺産分割が行われることにもなりかねません。とりわけ、遺言書の中に、遺言をし
たためた理由や各相続人に対する思いなどを記載している場合には、なおさらその
存在を明確にしておくべきです。また、遺言の内容を確実に執行してもらおうと思
えば、遺言執行者を指定すべきです。

いずれにしても、遺言を作成しようとされる際には、是非弁護士に相談されるこ
とをお勧めします。

以上


*1民法967条

*2民法976条以下

*3 遺言の内容によっては、遺産分割調停ではなく、遺留分減殺請求事件として取り
扱われる場合があります。遺留分減殺については、別の機会に。

*4 平成28年2月19日掲載第74回 遺産分割をめぐって Part1 参照

*5 自筆証書遺言の形式について民法968条

*6 最判昭和62年10月8日民集41・7・1471

*7 最判平成5年10月19日集民170・77

*8 最判昭和54年5月31日民集33・4・445

*9 大判大正4年7月3日民録21・1176

*10 最判平成1年2月16日民集43・2・45 なお、花押は押印と認められませ
ん。最判平成28年6月3日

*11 民法968条2項

*12 遺言の撤回の範囲は、遺言書の記載に照らして判断されることになります。最判
平成9年11月13日民集51巻10号4144頁

*13 民法1023条1項

*14 最判昭和58年3月18日集民138・277、最判平成13年3月13日集民
201号345頁

*15 相続させる趣旨の遺言について
最判平成3年4月19日民集45・4・4477

*16 民法908条

*17 遺贈の場合も受遺者の所有となりますが、登記の申請手続や登録免許税の割合な
どに違いがあります。なお、公正証書遺言では、相続させるという文言が用いら
れています。

*18 民法902条

*19 民法1004条 検認を怠ると、過料に処せられる場合があります。民法100

5条また、対象不動産の移転登記申請には、検認の証明書が必要です。

執筆者:中村 隆次

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