色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第89回 遺産分割をめぐって Part4 特別受益について

2016/11/09

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 相続人の中には、生前、被相続人(亡くなった人)から贈与を受けたり、遺言で財産を譲り受ける人もいます。これらの財産は遺産分割の対象外です[1]。しかし、これらの財産を除いて被相続人のその他の財産のみを遺産分割の対象として相続分に応じて分割すると,実質的に不公平が生じます。そこで、民法は、相続人が被相続人から生前贈与や遺贈を受けている場合には、被相続人死亡時の財産総額(この中に遺贈分は含まれています。)に、生前贈与の財産の価額を加えて、これら全体を相続財産とみなし(みなし相続財産)、各相続人の具体的な相続分(取得分)を算定することとしています。このような遺贈や生前贈与の財産を特別受益[2]といいます。

 遺産分割協議においては、自己の取得分を少しでも増加させるため、他の相続人が生前贈与を受けているとの主張がよく行われます。そこで、今回は、特別受益がどのような場合に認められるか、その評価はどのように行うか述べてみたいと思います。

 

2 遺贈・相続させる遺言

 遺言によって、特定の財産について贈与を受ける場合(特定遺贈)や、財産の全部又は一部を一定の割合で贈与を受ける場合(包括遺贈)には、これらの財産はいずれも特別受益に該当します[3]。

 特定の財産や財産の全部又は一部について、相続させる旨の遺言がなされた場合も同様です[4]。

 

3 婚姻若しくは養子縁組のための贈与

 娘や息子の婚姻や養子縁組のための持参金や支度金は、一般的には特別受益に該当します。ただ、その額が少額で、被相続人の生前の資産や生活状況に照らして扶養の一部(お祝い)と認められるような場合には、該当しないと考えられています。

 婚姻や養子縁組の相手方に対して贈与がなされることもあります。縁組み後相続人になる場合には、縁組み前であっても相続人に対する贈与と同じと考えられます。したがって、特別受益に該当します。

 結納金や挙式費用は、遺産の前渡しとはいえず、社会的儀礼・慣行と考えられますから、一般には特別受益には該当しないとされています。

 

4 学資等

 高等教育を受けるための学資(入学金や授業料など)について、これまでは、将来の生計の資本としての贈与と考えられてきました。しかし、被相続人の社会的地位、資産や生活状況、他の相続人との比較などを総合して、贈与か否かが判断されることになります。子供らの資質や能力に応じてそれぞれ同程度の教育を受けさせているような場合には、子供らに対する扶養の一部と考えられます。このような場合には、特別受益に該当しないというべきです。留学の費用などについても同様です。

 

5 不動産等

 不動産の贈与(所有権の移転)ないし購入資金の贈与は、よほどのことがない限り、特別受益に該当します。

 正当な対価を支払っていない限り、借地権の譲渡や設定も同様です。

 

6 金銭の贈与

 遺産分割協議において、預金通帳の払戻の事実などから、その都度贈与がなされたとして特別受益の主張がなされることがよくあります。特別受益に該当する生計の資本としての贈与に該当するか否かは、贈与金額、贈与の趣旨などを総合して判断されることになります。遺産の前渡しと認められるような高額な贈与であれば、特別受益に該当しますが、贈与の趣旨・目的(例えば、入学祝い、誕生日の祝い、新築祝い、帰省時の小遣いなど)からして扶養の一部と認められるような場合には、少額の贈与が繰り返されたからといって特別受益には該当しないと思われます。

 

7 使用貸借等

 相続人の一人が被相続人所有の土地の上に建物を建てて、無償で使用しているような場合がよくあります。土地の使用貸借契約と考えられ、被相続人の財産は使用借権相当額の減少となりますから、この利益(更地価格の1割から3割程度)は、特別受益に該当します。

 被相続人所有の建物に無償で居住している場合も使用貸借ですが、土地の場合と異なり、恩恵的要素が強く、財産の減少ともいえず、遺産の前渡しとも言いにくい面があります。また、もともと被相続人と同居していたような場合には、独立の占有とはいえません。したがって、いずれも特別受益に該当しないと思われます。

 

8 生命保険金

 死亡保険金ないし死亡保険金請求権は、保険金受取人が保険契約に基づき固有の権利として取得するもので、相続財産に属するものではないことは、前回述べたとおりです[5]。

 したがって、被相続人から遺贈ないし贈与を受けたということはできませんから、原則として特別受益に該当しないことになります。

 ただ、死亡保険金を取得するための費用である保険料は、被相続人が支払ったものですから、相続人の一人が死亡保険金を受領することによる不公平が甚だしく、民法903条の趣旨に照らして到底是認できないものであるような例外的な場合には、特別受益と考えるべきです[6]。そして、例外的といえるか否かは、保険金の額、遺産総額と保険金の比率、受取人と被相続人との同居の有無や受取人の介護等に対する貢献の度合い、他の相続人と被相続人との関係、被相続人や他の相続人の生活の実態等を総合考慮して判断することになります。

 

9 死亡退職金

 これは、法律、条例、労働協約、就業規則などによってそれぞれ受給者が定まっており、受給者の生活保障を目的としたものと考えられます。被相続人からの贈与とはいえず、特別受益の対象ではありません[7]。

 

10 相続人以外に対する贈与

 被相続人が子供の配偶者や孫に対して贈与をすることがよくあります。このような場合は、子供に対する贈与ではありませんから、原則、その子供に対する特別受益には該当しません。しかし、その贈与が実質的・常識的にみて,子供に対する遺産の前渡しと考えられる場合もあります。このような場合は、特別受益と判断されることもありますので、注意を要します。

 

11 第2次相続

 被相続人である父が死亡し(第1次相続)、その遺産分割がなされない間に相続人である母が死亡して(第2次相続)、相続が開始するようなこともよくあります。このような場合には、第1次相続について遺産分割を行い、その後、第2次相続について遺産分割を行うことになります。したがって、それぞれの相続について、特別受益を考えることになります[8]。

 

12 特別受益の評価

 特別受益に該当する贈与の価額は、贈与時の価額ではなく、相続開始時に贈与時の現状のままあるものとみなして算定することになっています[9]。したがって、受贈者の行為によって贈与財産の価額が増減したとしても、贈与当時のまま存在するものとみて価額を算定します。例えば、贈与を受けた不動産の価額が値上がりしていればその値上がり後の価額となりますが、地震によって倒壊したような場合には、価額はゼロと評価されることになり、特別受益はなかったことと同じになります。

 現金の場合は、贈与時からの貨幣価値の変動を考慮することになります。

 

13 評価の時期

 1で述べたとおり、特別受益があれば、被相続人の相続開始時の財産総額に贈与された財産の価額を加えて、全体の相続財産とみなして、各相続人の具体的な相続分(取得分)を算定することになっています[10]。したがって、相続開始時(被相続人死亡時)の価額を評価することが必要となります。

 この具体的な相続分の割合(具体的相続分率)は、特別受益や次回に述べる寄与分を考慮して相続開始時を基準として算出しますが、こうして算出された具体的相続分率を遺産分割時の財産に乗じて、各相続人の取得額を算定することになります。

 現実の遺産分割においては、相続開始時と遺産分割時の2時点の評価を行っています。もっとも、2時点にそれほど隔たりがなく、当事者に争いがなければ、遺産分割時の評価のみで分割が行われることが多いと思われます。

 

14 評価方法

 最も評価額に争いがあるのは不動産です。不動産の場合、固定資産税評価額ないし相続税評価額に基づき主張されることが多いのですが、争いがあれば、鑑定によることになります。現実には、家事事件手続法に基づく鑑定[11]ではなく、当事者が選任した不動産鑑定士による鑑定書が提出されることが多いようです。

 また、非上場株式の評価も問題となります。会社法上の評価方法[12]のほか、財産評価基本通達[13]による方法もあり、専門家の鑑定によることも多いようです。

 書画骨とう品の評価が困難なことは前回[14]述べたとおりです。

 

 遺産分割手続において、特別受益が問題となるような場合には、弁護士に相談されることをぜひお勧めします。

                                             以上


[1]  遺産分割の対象について・遺産分割をめぐって PART 3 参照

[2]  民法903条

[3]  民法903条・相続税法9条は、相当広い範囲の利益の供与を被相続人からの贈与とみなし、相続開始前6年以内のみなし贈与も贈与税の課税対象としています。

[4]  相続させる遺言について・遺産分割をめぐって PART 2 参照

[5]  遺産をめぐって PART 3 参照

[6]  最高裁平成16年10月29日判決・民集58巻7号1979頁

[7]  遺産分割の対象でもないことは前回述べたとおりです。遺産をめぐって PART 3 参照

[8]  最高裁平成17年10月11日判決・民集59巻8号2243頁

[9]  民法904条

[10]  民法903条

[11] 家事事件手続法64条1項

[12]  純資産方式(会社法144条5項)、配当還元方式、類似業種比準方式

[13]  財産評価基本通達178,179

[14]  遺産をめぐって PART 3 参照

 

執筆者:中村 隆次

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