色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第93回 相続税の基礎控除と遺産分割の対象財産(第45回コラム改訂版)

2017/01/13

※下線部が改訂箇所です。

 

1 相続税の基礎控除

 本年4月から消費税の税率が5%から8%に引き上げられたことは、ご承知のとおりですが、相続税や贈与税についても、4月から改正がなされています。

 主な改正点の一つは、相続税の基礎控除が大幅に減額されていることです[1]。即ち、これまでは、5000万円と相続人の数に1000万円を乗じた額の合計額を控除するとされていましたが、平成27年1月1日以後の相続に関しては、それぞれ、3000万円、600万円と減額されたのです。例えば、被相続人に妻と子供が2人いたとすると、これまでは、8000万円が基礎控除額であったのに、4800万円になるということです。ですから、課税対象となるケースがかなり増加するといわれています。

 そうなると、基礎控除額を増やすためには、相続人の数を増やせばいいのでしょうか。ところがそうはいかないのです。かつて、孫を養子にするという相続対策が盛んになされたことがありました。そこで、昭和63年末の改正で、実子がいる場合には養子の数は1人分、実子がいない場合には2人分までとして計算することになりました。ですから、養子の数を増やしても、基礎控除額は増額せず、かえって1人当たりの相続分は減少することになるのです。

 

2 遺産分割の対象財産

 ところで、被相続人が有していた財産は相続の対象となりますが、そのすべてが遺産分割の対象になるとは限りません。財産の種類性質によっては、対象とならないものもあるのです。

① 金銭債権

 預金などの金銭債権は、相続とともに当然分割され、法定相続分に応じて、各相続人に帰属すると解されてきましたが[2]、平成28年12月19日の大法廷決定により解釈が変更され、遺産分割の対象となることが明らかとなりました。もっとも、これまでも現実の遺産分割協議の場では、預金も対象とされることが多く、各相続人の取得割合や金額を定めた上で、代表者が解約や払戻を受けて、振込送金するのが一般的でした。

 現金は、遺産分割の対象となりますし、定額郵便貯金は、分割払戻自体が禁止されています[3]。投資信託や国債も、相続によって当然に相続分に応じて分割されることにはなりません。したがって、遺産分割の対象となります。

② 生命保険金

 生命保険金請求権は、保険契約の効果として、保険金受取人が直接取得することになります。受取人を「相続人」として指定していた場合でも、相続人自身の固有財産となり、被相続人の遺産とはみなされません[4]。もっとも、現実の遺産分割協議の際には、多くの場合、この生命保険金請求権について特別受益に当たるとの主張がなされます。

③ 死亡退職金

 これは、法律、条例、労働協約、就業規則などによって受給者が定まっており、遺産分割の対象とはなりません[5]。したがって、特別受益にも該当しません。

④ 金銭債務

 これは、被相続人の死亡により、当然分割され、法定相続分に応じて、各相続人が負担することになります。したがって、遺産分割の対象ではありません。ただ、現実の遺産分割協議では、1人が責任を持って支払うこととし、その他の相続人には迷惑を掛けないと定めることがあります。このような場合でも、債権者は、各相続人に対し、相続分に応じた支払を求めることができます。

⑤ 葬式費用と香典

 現実の遺産分割協議の場では、葬式費用の負担や香典の取得に関して争いが生じます。しかし、これらは、被相続人死亡後に生じたものですから、遺産分割の対象ではありません。本来は、喪主(祭祀承継者であることが多い。)が負担取得すべきものです[6]。

 このように、個々の財産の種類性質によっては、遺産自体に含まれないものもありますし、一方で、遺産分割協議の対象とすることのできるものもあります。

相続が発生した場合には、是非、弁護士にご相談ください。

 


[1] 他の改正点として、相続税率の見直し、未成年者控除や障害者控除の見直し、小規模宅地等の課税計算の特例の見直し、居住用宅地の適用要件の緩和、贈与税率の見直し、教育資金の一括贈与の非課税措置の創設など

[2]  預金者が死亡した場合、共同相続人の1人は預金債権の一部を相続により取得しますが、相続人が単独で自己の相続分相当額の払戻を受けられるかというと、金融機関によって取扱いが異なるようです。ただし、被相続人名義の預金口座の取引履歴は単独で開示を求めることができます。

[3]  郵便貯金法7条

[4]  ただし、相続税の対象にはなります。

[5]  ただし、相続税の対象となります。

[6]  常識的な範囲であれば、葬式費用は相続財産から控除できますし、香典には相続税は課税されません。

執筆者:中村 隆次

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