色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第94回 遺産分割をめぐって Part3 遺産分割の対象について(第84回コラム改訂版)

2017/01/13

※下線部が改訂箇所です。

 

1 遺産分割の対象財産については、かつてこのコラム欄に掲載[1]したことがありますが、被相続人(亡くなった人)の所有していた財産のすべてが遺産分割の対象になるとは限りません。

 特定の相続人に贈与(遺贈)や相続させる趣旨の遺言がなされた場合[2]には、その財産は、贈与等を受けた相続人が単独で取得することになります。

 このような遺言がない場合でも、財産の種類・性質によっては、遺産分割をするまでもなく、各相続人が取得することになる場合もあるのです。また、遺産分割の内容によっては相続税の課税価格にも影響があります。

 そこで、遺贈や相続させる遺言がないことを前提に、問題となりそうなものについて、改めて述べてみたいと思います。

 

2 不動産

 土地や建物は、被相続人が亡くなれば、相続人の共有状態となりますから、当然、遺産分割の対象となります。そして、土地は原則として被相続人が死亡した年の路線価[3]で、建物は固定資産税評価額[4]で価額を評価することになっています。また、特定の居住用宅地や事業用宅地等については、一定の要件のもとで小規模宅地等の特例[5]の適用もあります。

 

3 借地権等

 借地権や借家権も不動産の利用権として、遺産分割の対象となります。しかし、課税価格には大きな違いがあります。借地権[6]と異なり、借家権は原則として課税されないことになっています[7]。

なお、市営住宅や府営住宅などの公営住宅の入居者が死亡した場合には、その相続人が当然に借り続けられるものではないとされています[8]。このような場合については条例に定めがあることが多く、同居者(相続人でなくても)が改めて入居の承認を得ることになっています[9]。

  

4 預貯金

 預貯金及び定期預貯金もすべて遺産分割の対象となります[10]

これまでは、遺産分割の対象ではなく、相続開始時(死亡時)の口座残高について、各相続人が相続分に応じて取得すると解されていましたが[11]、平成28年の大法廷判決により変更されました。

しかし、被相続人の死亡後、債務の支払等で預貯金の払い戻しを要する場合に、どのような方法によるかは今後の問題です[12]

もちろん、共同相続人の1人が、単独で、被相続人名義の預金口座の取引履歴の開示を求めることはできます[13]

 

5 金銭債権一般

 金銭債権は、一般に、相続とともに当然分割され、法定相続分に応じて各相続人に帰属すると解されています[14]。したがって、相続の対象となりますが、遺産分割の対象ではありません。

 なお、損害賠償請求権(例えば、被相続人が交通事故で死亡したような場合)のうち慰謝料部分は、非課税と考えられます[15]。

 

6 現金

 現金も、遺産分割の対象と考えられています[16]。

 

7 生命保険金

 生命保険金請求権については、前回にも触れましたが、相続財産に属するものではなく、保険契約の効果として、保険金受取人が直接取得することになります[17]。受取人を個人ではなく単に「相続人」として指定していた場合には、相続人自身の固有財産となり、法定相続分の割合によって取得することになります[18]。したがって、いずれも遺産分割の対象ではありません。

 

8 ゴルフ会員権

 ゴルフ会員権については、預託金形態、株主形態、社団法人形態などがあります。相続が認められるか否かは、ゴルフクラブの会則で定められており[19]、社団法人形態では、通常、相続が認められません。相続が認められない場合は、相続財産に含まれず、遺産分割の対象でもありません。

 相続が可能な場合には、遺産分割により取得者を決めることになりますが[20]、取得者には名義変更料や年会費の支払義務が生じます[21]。なお、名義変更料は、相続税の債務控除の対象ではありません。

 

9 死亡退職金

 これは、法律[22]、条例[23]、労働協約、就業規則[24]などによってそれぞれ受給者[25]が定まっており、遺産分割の対象とはなりません[26]

 

10 株式

 株式(株主権)が共同相続された場合の関係について明示した最高裁判例はありませんが、その権利の性質上[27]、金銭債権と同視できないと考えられています。したがって、遺産分割の対象となりますが、遺産分割が行われるまでは準共有状態となり[28]、株主総会において権利を行使するには権利行使者を会社に届けなければなりません(会社法126条3項)。

 なお、個人会社を経営していた人が亡くなった場合のように、上場されていない株式については、遺産分割において、その価額の評価[29]がよく争われます。

 

11 投資信託

 投資信託の中にはMRFやMMF[30]のように普通預金に類似した機能を有するものも存在しますが、投資信託受益権の性質・内容に照らすと、権利の単位を1口未満に分割することは予定されていないと考えられます。したがって、相続によって当然に相続分に応じて分割されることにはなりません[31]。

 同様に、相続開始後に償還期限が到来した投資信託の元本償還金や利益分配金も当然分割とはなりません[32]。いずれも遺産分割の対象となります。

 

12 国債

 個人向け国債は、額面金額の最低額は1万円で、最低券面額未満に分割されることは予定されていないと考えられます。したがって、これも当然分割されることにはなりません[33]。

 

13 社債

 社債は、会社に対する金銭の貸し付けと考えられますが、社債原簿への記載変更請求は、社債の相続人が共同してしなければならないとされていること(会社法691条2項)などからすると、一般金銭債権とは異なり、当然分割はされず、遺産分割の対象となると考えられます。

 

14 出資金

 協同組合などの出資金について、死亡は法定脱退事由とされており[34]、持分の払戻が認められています[35]。したがって、金銭債権と同様と考えられ、当然分割されます。ただ、払戻は事業年度末とされていることが多い[36]ので、注意を要します。

 

15 遺族年金受給権

 相続人が掛金ないし保険料を負担した後に死亡すると、遺族が年金を受給することがありますが、これらは公的年金でも私的年金でも、遺産分割の対象とはなりません。法律の規定ないし契約により受給者が定まっているからです[37]。なお、遺族年金は非課税とされています[38]。

 

16 動産類、書画骨とう品など

 これらも遺産分割の対象となりますが、現実の遺産分割調停では、そもそも当該物件がどこにあるのかさえ明らかでないことも多く、その価値を評価[39]するのも大変です。鑑定まで行うことは少なく、形見分けということで処理することが大部分です。

 

17 金銭債務

 これは、被相続人の死亡により当然分割され、法定相続分に応じて、各相続人が負担することになります。したがって、遺産分割の対象ではありません。ただ、現実の遺産分割協議では、1人が責任を持って支払うこととし、その他の相続人には迷惑を掛けないと定めることがあります[40]。このような場合でも、債権者は、各相続人に対し、相続分に応じた支払を求めることができます。

 なお、遺産分割が終了した後に相続人となった場合[41]、当該相続人は、民法910条に基づき、支払を請求した時の遺産総額を元に、相続分に応じて他の相続人に対し価額の請求ができます[42]が、債務についても相続分に応じて負担することになります。

 

18 代償分割

 遺産分割協議において、相続人の1人が遺産を取得し、他の相続人に対して相続分に応じた現金を交付することもよく行われます。このような代償分割が行われた場合、現金の交付を受けた相続人は、その額が相続税の課税価格に参入され[43]、現金を交付した相続人は、その額が相続税の課税価格から控除されます[44]。

 

19 葬式費用と香典

 現実の遺産分割協議の場では、葬式費用の負担や香典の取得に関しても争いが生じます。しかし、これらは、被相続人死亡後に生じたものですから、遺産分割の対象ではありません。本来は、喪主(祭祀承継者であることが多い。)が負担取得すべきものです[45]が、合意によって、協議の対象とすることも多いようです。

                                  以上


[1]  平成26年7月23日第45回・相続税の基礎控除と遺産分割の対象財産

[2]  相続させる遺言について・遺産分割をめぐって Part 2 参照

[3]  財産評価基本通達11、路線価が定められていない地域では倍率方式です。

[4]  財産評価基本通達89

[5]  租税特別措置法69条の4

[6]  借地権の評価について 財産評価基本通達54

[7]  財産評価基本通達94但し書き

[8]  最高裁平成2年10月18日判決・民集44巻7号1021頁

[9]  大阪府営住宅条例37条、大阪市営住宅条例18条など

[10] 最高裁平成28年12月19日大法廷決定

[11] 最高裁昭和29年4月8日判決・民集8巻4号819頁、最高裁昭和30年5月31日判決・民集9巻6号793頁、最高裁平成16年4月20日判決・裁判集民事214号13頁

[12] 最高裁平成28年12月19日大法廷決定の補足意見によると、家事事件手続法200条2項の仮分割の仮処分等の活用も考えられる。

[13] 最高裁平成21年1月22日判決・民集63巻1号228頁

[14]  最高裁昭和29年4月8日判決・民集8巻4号819頁、最高裁昭和30年5月31日判決・民集9巻6号793頁

[15]  所得税法9条1項17号・所得税法施行令30条

[16]  最高裁平成4年4月10日判決・集民164号285頁

[17]  最高裁昭和40年2月2日判決・民集19巻1号1頁

[18]  最高裁昭和48年6月29日判決・民集27巻6号737頁、最高裁平成6年7月18日判決・民集48巻5号1233頁

なお、相続税の対象にはなりますが、相続人1人当たり500万円の非課税限度額が認められます(相続税法12条1項5号)。

[19]  預託金会員制ゴルフクラブについて・最高裁平成9年3月25日判決・民集51巻3号1609頁

[20]  ゴルフ会員権の評価について(財産評価基本通達211)。相続が認められない場合は評価されませんが、取引相場がある会員権は、原則取引価格の70%で評価されます。

[21]  相続性が認められても預託金のみの返還請求は認められません。最高裁平成9年12月16日判決・集民186号603頁

[22]  国家公務員退職手当法2条、2条の2、地方公務員法24条5項・地方自治法204条3項、205条

[23]  地方公務員法24条5項・地方自治法204条3項、205条、地方公務員の例・最高裁昭和58年10月14日判決・集民140号115頁

[24]  学校法人の例・最高裁昭和60年1月31日判決・集民144号75頁

[25] 受給者の定めがない場合の規程・相続税基本通達3-25

[26]  最高裁昭和55年11月27日判決・民集34巻6号815頁、最高裁昭和62年3月3日集民150号305頁。相続税の対象にはなりますが、相続人1人当たり500万円の非課税限度額が認められます(相続税法12条1項6号)。

[27] 共益権と自益権を併せ持つ権利です。

[28]  最高裁昭和45年1月22日判決・民集24巻1号1頁、最高裁昭和52年11月8日判決・民集31巻6号847頁、最高裁平成2年12月4日判決・民集44巻9号1165頁は、いずれも準共有の立場を採用しています。

[29]  相続税の関係では,財産評価基本通達178,179

[30]  マイナス金利政策の影響で、運用を終えて償還するものが増えています。

[31] 最高裁平成26年2月25日判決・民集68巻2号173頁

[32] 最高裁平成26年12月12日判決・集民248号155頁

[33] 最高裁平成26年2月25日判決・民集68巻2号173頁

[34]  中小企業等協同組合法19条など

[35]  中小企業協同組合法20条1項など

[36]  中小企業協同組合法20条2項など

[37]  厚生年金保険法58条、59条など

[38]  厚生年金保険法41条2項など。

[39]  書画骨とう品の評価について・財産評価基本通達135

[40]  相続税の関係では、負担にかかる債務は財産の価額から控除できます(相続税法13条)。

[41] 死後認知の訴えや生前認知の訴えの判決が死後に確定した場合、遺言による認知の場合、胎児が死後に誕生した場合、離婚無効の訴え等が死後に確定した場合などがある。

[42]  最高裁判決平成28年2月26日・民集70巻2号195頁

[43]  相続税基本通達11の2-9(1)

[44]  相続税基本通達11の2-9(2)

[45]  常識的な範囲であれば、葬式費用は相続財産から控除できますし(相続税法13条1項・相続税基本通達13-4,5)、香典には相続税は課税されません(相続税基本通達21の3-9)。

執筆者:中村 隆次

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