色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第147回 「労働法」と独占禁止法との適用関係

2021/02/04

1 令和2年12月24日に「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイ
 ドライン」(案)(以下「ガイドライン案」といいます。)が公表されました。今後,
 意見募集の手続を経た上で,正式なガイドラインとして策定されることが予想されま
 す。
  ガイドライン案では,「基本的な考え方」として,「独占禁止法,下請法,労働関係
 法令とフリーランスとの適用関係」との項目が設けられており,フリーランスにおける
 「労働法」と独占禁止法との適用関係について言及されています。
  「労働法」と独占禁止法との適用関係については,平成30年2月15日人材と競争政策
 に関する検討会報告書(公正取引委員会)(以下「検討会報告書」といいます。)にお
 いても言及されており,今回のガイドライン案はこの検討会報告書における整理と軌を
 一にするものと思われますので,以下,ご紹介したいと思います。
 
2 「労働法」と独占禁止法の適用関係に関する議論について,検討会報告書が出される
 以前は,労働者には「労働法」が適用され,事業者には独占禁止法が適用される,そし
 て,労働者と事業者は峻別されるため,「労働法」と独占禁止法が交錯することはない
 と整理されていました。しかしながら,これまで事業者とされてきた個人事業主のう
 ち,合唱団員や機材の修理・補修の受託者などにおいて労働組合法上の労働者性を肯定
 する最高裁が示されました(最判平成23年4月12日(新国立劇場事件),最判平成23
 年4月12日(新国立劇場事件),最判24年2月21日(ビクターサービスエンジニアリン
 グ事件))。その結果,労組上の労働者であり,かつ,事業者である類型が存すること
 が判明し,上記の労働者事業者峻別論の限界が明らかとなりました。
  そのような状況の中で,平成30年2月15日に検討会報告書が示されました。この検討
 会報告書は働き方が多様化する中において人材の獲得をめぐる競争における独占禁止法
 の適用を整理した報告書ですが,その中で,「労働法」と独占禁止法の適用関係が整理
 されました。その内容は,従前の労働者事業者峻別論を採用せず,原則として労働法を
 優先的に適用するとの整理でした。すなわち,個別的労働関係においても集団的労働関
 係においても「労働法」において規律されている分野については原則として独占禁止法
 の問題とはならないとし,例外的に「労働法」の制度趣旨を逸脱する場合等においての
 み独占禁止法の問題が生じるとしました。
  ガイドライン案においても,この労働法優先適用論は維持されているものと思われま
 す。すなわち,ガイドライン案では,「フリーランスとして業務を行っていても,実質
 的に発注事業者の指揮命令を受けて仕事に従事していると判断される場合など,現行法
 上『雇用』に該当する場合には,労働関係法令が適用される。この場合において,独占
 禁止法や下請法上問題となり得る事業者の行為が,労働関係法令で禁止又は義務とさ
 れ,あるいは適法なものとして認められている行為類型に該当する場合には,当該労働
 関係法令が適用され,当該行為については,独占禁止法や下請法上問題としない。」と
 されており,事業者であるフリーランスであっても労働関係法令が適用される場合には
 労働関係法令が優先的に適用されて,独占禁止法の問題とはならないことが明言されて
 います。
 
3 このように人材獲得競争に関する議論において示された労働法優先適用論はフリーラ
 ンスに関する議論においても採用されることが明らかとなりましたが,この労働法優先
 適用論は,独占禁止法が適用される前提として労働法が適用されないことを求めるた
 め,公正取引委員会はケースによっては労働者か否かの判断をしなければならないこと
 も明らかとなりました。しかしながら,この労働者性の認定は,労基法上の労働者にし
 ろ労組法上の労働者にしろ,各要素を踏まえた総合考慮によって判断するものであり,
 労働委員会や裁判所においてもその判断が分かれるほど困難なものも少なくありません
 (最近では,大手コンビニエンスストアとフランチャイズ契約を締結する加盟店オーナ
 ーの労組法上の労働者性が議論となっていることはご存知のとおりです)。
  したがって,労働法優先適用論は,労働者事業者峻別論の限界を超えた一方,その副
 作用として,公正取引委員会に所管外の法令の適用関係を判断させるという負担を強い
 たものと考えることができそうです。

以上

執筆者:有岡 一大

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