色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第146回 患者情報の第三者(紹介元や患者家族)への提供について

2020/12/15

1,はじめに
 「紹介元医療機関に対して診察結果を返信するのは医師としては当然のこと(患者の同意は要らない)」,「患者の家族等に対して病状説明するのに患者の同意など要らない」,「患者の同意は必要かもしれないが,当院では個人情報の利用目的について院内掲示しているので大丈夫」・・・果たして本当でしょうか。
 
2,ガイダンスの内容
 医療機関における個人情報の取扱については,個人情報保護委員会及び厚生労働省が作成した「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイダンス」(以下,ガイダンスといいます)に従った取扱が求められるところであります。ガイダンスにおいては,患者の個人データの第三者への提供について「医療・介護関係事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、個人データを第三者に提供してはならない」が次のような場合については「本人の同意が得られている場合」として整理をしています(分かりやすくするために省略している部分がありますので正確な内容についてはガイダンスをご参照下さい。アンダーラインは筆者によります)。
 「医療機関の受付等で診療を希望する患者は、傷病の回復等を目的としている。一方、  医療機関等は、患者の傷病の回復等を目的として、より適切な医療が提供できるよう治療に取り組むとともに、必要に応じて他の医療機関と連携を図ったり、当該傷病を専門とする他の医療機関の医師等に指導、助言等を求めることも日常的に行われる。・・・このため、第三者への情報の提供のうち、患者の傷病の回復等を含めた患者への医療の提供に必要であり、かつ、個人情報の利用目的として院内掲示等により明示されている場合は、原則として黙示による同意が得られているものと考えられる。・・・ (ア)患者への医療の提供のため、他の医療機関等との連携を図ること (イ)患者への医療の提供のため、外部の医師等の意見・助言を求めること (ウ)患者への医療の提供のため、他の医療機関等からの照会があった場合にこれに応じること (エ)患者への医療の提供に際して、家族等への病状の説明を行うこと等が利用目的として特定されている場合は、これらについても患者の同意があったものと考えられる。
 この場合であっても、黙示の同意があったと考えられる範囲は、患者のための医療サービスの提供に必要な利用の範囲であり、・・・各医療機関等が示した利用目的に限られるものとする。」
 
3,上記のガイダンスの内容からすれば,紹介元医療機関に対する返信や家族等への説明については,本人の同意が必要である(すなわち,「はじめに」に記載した,はじめの2つは間違い)ということになります。それでは,上記のような利用目的を記載した院内掲示があれば,どんな場合でも紹介元への返信や家族等への説明は同意があったと評価されるのでしょうか。
 上記のとおり,同意があると考えられるのは「患者の傷病の回復等を含めた患者への医療の提供に必要」,「患者のための医療サービスの提供に必要」な第三者提供であってどのような場合でも院内掲示で足りるとはされていません。
 この点,ガイダンスに関連してQ&Aが出されておりますので,以下,紹介元医療機関への返信,家族等への説明に関するQ&Aを紹介しながらさらに検討します。
 
4,紹介元医療機関への返信
 Q&Aにおいては紹介元医療機関への返信について以下のように記載しています。
 「Q4-10 病診連携の一環として、紹介を受けた患者の診療情報、検査結果、 所見等を紹介元医療機関に対して情報提供を行っていますが、実施に当たっての留意点は何ですか。
A4-10 紹介元医療機関に対する患者への医療の提供のために必要な情報提供は、「他の医療機関等との連携を図ること」に該当し、・・・院内掲示を行っている場合には、本人の黙示による同意が得られているものと考えます(当該内容の利用目的を院内掲示していない場合には本人の同意を得ることが必要です)。(以下,略)」
Qでは「病診連携の一環」としてという前提付きです。かかりつけ医から専門病院に紹介をして,専門病院での検査結果等をかかりつけ医にフィードバックすることにより,その後のかかりつけ医としての診療に役立てるというような場面を想定しているのだと思われ,医療の提供のために必要な情報提供と判断されるのは当然のことだと思います。それでは,例えば,旅行先で具合が悪くなり,見ず知らずの診療所に駆け込んだが,手に負えないことから紹介状とともに専門病院に転送したような場合(しかも診療所ではその後も受診の予定なし)にはどうでしょうか。同診療所においてはその後に診療することは予定されていないのですから,厳密に言えば,患者の医療の提供のために必要な情報提供と判断されない可能性はあると思います。紹介元医療機関への返信については,いわば「礼儀」「常識」として当たり前のように行われており,実際に問題になることはほとんどないと思いますが,法律上は全く問題にならないわけではないことはご留意いただければと思います。
 
5,家族等への説明
 「Q4-1 患者・利用者の病状等をその家族等に説明する際に留意すべきことは何ですか。
A4-1 医療機関等においては、患者への医療の提供に際して、家族等への病状の説明を行うことは、患者への医療の提供のために通常必要な範囲の利用目的と考えられ、院内掲示等で公表し、患者から明示的に留保の意思表示がなければ、患者の黙示による同意があったものと考えられます。(以下,略)」
と記載されています。
 しかしながら,家族等への病状説明が全て「患者の傷病の回復等を含めた患者への医療の提供のために必要」と言えるのでしょうか。極端な例かもしれませんが,同居・付添・看護もしていない家族が突然にやってきて予後を聞かれたが,これは財産が相続により手に入る時期を知りたいためであったというような場合には「医療の提供のために必要」とは到底言えないと思います。同居・付添・看護をしているような家族の場合には「医療の提供のために必要」と通常は言えるでしょうが,家族といえども患者との関係は様々ですから,「院内掲示をしているから大丈夫」と考えずに,「家族といえどもこの人に説明して大丈夫か?」という問いかけを常にしながら,必要に応じて個別に患者の意思を確認することが必要と考えます。紹介元医療機関への返信でトラブルになることは,あまり考えられませんが,家族等への説明でトラブルになることは十分に考えられますので注意が必要です。
 なお,ガイドラインにおいては,「家族等への病状説明については、『患者(利用者)への医療(介護)の提供に必要な利用目的』と考えられるが、本人以外の者に病状説明を行う場合は、本人に対し、あらかじめ病状説明を行う家族等の対象者を確認し、同意を得ることが望ましい。この際、本人から申出がある場合には、治療の実施等に支障を生じない範囲において、現実に患者(利用者)の世話をしている親族及びこれに準ずる者を説明を行う対象に加えたり、家族の特定の人を限定するなどの取扱いとすることができる。」として,病状説明を行う対象者の確認を行うことが望ましいとされています。
 
6,最後に
 以上のとおり,ガイドライン上は,患者の個人情報の紹介元や家族等への提供については,多くの場合は院内掲示で足りるとは思いますが(個人的には病歴などの特別な配慮を要する個人情報の第三者提供についてはもっと慎重であるべきと考えますが),例外的に院内掲示で足りない場合もあります。院内掲示で足りないと思われる事案については個別に意思を確認することが必要となりますが,「院内掲示で足りるか否か」を事案毎に判断するのが大変であるということであれば,初診時に個人情報の第三者提供について個別に書面にて同意をもらっておくという方法もあると思いますが,同意をとる以上は「誰にどのような情報を提供していいのか」について明確にしておく必要があり(抽象的な書き方をしてしまうと患者さんから「私はそこまでは同意していない」と言われかねません),また,初診時には構わないと思っていたが,その後の病状の変化で「やっぱり嫌だ」と思ったときにどのように手当するかなど色々と難しい問題があります。

執筆者:田辺 陽一

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