コラム

Column

第139回 模倣品・類似品への対応について

1 模倣商法と法律

モノを売る最も簡単な方法は,よく売れている他社の商品を「パクる」(模倣する)ことではないかと思われます。しかし,このよう行為は,いわば“他人が蒔いた種を労せずに刈り取る”という“ただ乗り”(フリーライド)であり,商道徳に悖る極めて悪質な行為であるばかりでなく,法律上も厳しく規制されています。具体的には,商標権侵害,意匠権侵害,不正競争防止法違反,著作権侵害であり,これらにはいずれも罰則があり犯罪行為として処罰される可能性もあります。
本コラムでは,これらの模倣品・類似品の販売差止等を求める際の留意点を概観します(なお,逆に,他社から「類似している」等として警告書の送付を受けたり,提訴されたりするケースもありますが,その場合の対応については別稿でとりあげる予定です。)。

2 模倣・類似と他社情報の利活用

最近はかなり減りましたが,少し前までは,中国企業等が自社製品をそっくりそのまま模倣し(いわゆるデッドコピー),国内でネット販売するという事例が頻発しました(なお,統計データについては,経産省製造産業局模倣品対策室の「模倣品・海賊版対策の相談業務に関する年次報告」ご参照[1])。このような行為を放置すると自社の売上が減少するばかりでなく,ブランドや品質に対する信用が損なわれますので,発見したときは,直ちに侵害者を特定し,内容証明やメール,電話等で警告を行う必要があります。悪質な場合は,警察あるいは検察庁(直告)に刑事告訴することもあります。
しかし,たいていの場合は,そっくりそのまま模倣する(同一)のではなく,微妙に違う部分があるものです(類似)。
他社製品から着想を得たり,先行技術に抵触しないように設計変更することはよくあることで,他社製品を参考にすること自体は,それが他社の営業秘密を盗用したり,知的財産権を侵害したりするなど違法にわたるものでない限り,自由競争の範囲内です。その意味では,類似品も,他社製品の情報をうまく利活用しているという側面も否定できないのですが,では,そのような情報の利活用は,どこまでなら許され,どこからが違法となるのでしょうか。
一口に模倣品・類似品といってもいろんなケースがあり,ロゴやキャラクターを無断で使用している,商品の形態や容器,包装が酷似している,あるいはイメージが類似しているなど様々です。また,中には模倣したわけではなく,たまたま類似してしまった場合(そもそも「類似」しているかどうかも問題です。)や,製品の機能上,類似した形態にならざるを得ない場合もあります。それゆえ,適法・違法を一律に線引きすることは難しく,結局のところ,自社製品の「何が」「どのように」侵害され,それを「どういう法的根拠で」争っていくのかを具体的にみていくほかありません。請求の法的根拠としては,前述した商標権,意匠権,不正競争防止法,著作権のほか一般不法行為が考えられ,実務上もこの順に検討したうえで,その全部または一部を根拠とすることが多いように思われます。
以下では,

■ 【自社(A社)の定番・売れ筋商品】  

 ・「いろかわのカバン」として関西地方を中心にビジネスマンによく売れているバッグ

 ・形態に特徴があり,バッグ本体には図形と文字からなるロゴマークが刻印され,タグ
には「いろかわのカバン」と標準文字で横書きされている

■ 【類似した他社商品】  

 ・「かわいろのカバン」と標準文字で横書きされ,ネット通販で販売されている

 ・バッグの形や色合いが似ており,バッグ本体にはよく似たロゴマークが刻印されてい

という架空の事例を想定し,順にみていきたいと思います。

3 商標権侵害 ~ブランドの保護(権利付与・登録型)

(1)「商標」とは,「人の知覚によって認識できるもののうち,標章(文字,図形,記
号,立体的形状若しくは色彩又はこれらの結合,音その他政令で定めるもの)であっ
て,業として商品を生産し,…又は譲渡する者がその商品について使用するもの」と
され(役務は省略しています。以下同じ。),本事例では,タグに表示された「いろ
かわのカバン」という文字,および文字と図形からなるロゴマークが商標にあたりま
す。これらの商標に,商品の出所(製造元であるA社)や品質,信用といった目に見
えない価値(ブランド)が化体されているわけです。
A社がこれらの文字やロゴマークが商標として登録[2]していれば,それと同一また
は類似の商標の使用を禁止することができます(禁止権)。具体的には,商品の販売
の差止・廃棄,設備の除却,さらに損害賠償を請求することができます。このため,
本事例では,商標登録されているか,されているとして類似しているかがポイントと
なります。

(2)まず,商標登録です。商標は,特許や意匠と違って,登録にあたって新規性・創作
性は要件とされず,更新によりエンドレスに使用することもできるのですが,コスト
上の理由から登録を見送ったり指定商品を限定することが多く,本事例においても,
商標登録がなされていなければ他の法的根拠を検討せざるを得ません。
なお,いざA社が自ら使用している商標を登録しようとすると,相手方等によって
先に申請されていることもあります。この場合,当該商標が,相手方の商品について
使用するものでない場合は登録されませんが(商標法第3条第1項柱書),念のため,
特許庁に対し,商標登録出願に関する情報提供を行うことも検討します。なお,万
一,登録されてしまった場合は,登録要件違反(第4条第八号以下の私益的不登録事
由)に基づく無効審判を請求したり(5年の除斥期間にご注意ください。),商標権
侵害の主張に対して先使用権,権利濫用等の抗弁を主張して争うことになります。

(3)商標登録がある場合は,類似しているか否かという類否の問題になります。これ
は,同一または類似の商品に使用された場合に商品の出所につき誤認混同を生ずるお
それがあるか否かによって判断されます。本事例では指定商品は同じかばん類(第18
類)ですので,もっぱら商標の類否が問題になります。
「いろかわのカバン」と「かわいろのカバン」という文字商標については,その出
所識別標識として強く支配的な印象を与える「いろかわ」と「かわいろ」という要部
について,外観(=見た目),観念(=意味),称呼(=音・読み方)等によって取
引者・需要者(卸や主要な購入者層であるビジネスマン層)に与える印象,記憶,連
想等を総合して全体的に考察し,取引の具体的取引状況を考慮して判断されます。
なお,これは時と場所を異にした「離隔的観察」によるものであり,ふたつの商品
を並べて見比べる「対比的観察」ではない点にご留意ください。
以上については,ロゴマークについても同様です。
実際の商標は,複数の文字の組み合わせによるものも多く,字体や文字の大きさ,
配置等も様々ですし,さらに文字と図形や記号を組み合わせた結合商標もあって,類
否の判断は決して容易ではありません。事案の重要度に応じ,専門技術的な知見を有
する弁理士の意見(必要に応じ評価書や鑑定書)を確認されることをお奨めします。

4 意匠権侵害 ~デザインの保護(権利付与・登録型)

意匠権は,「意匠」,すなわち「物品の形状,模様若しくは色彩又はこれらの結合であって視覚を通じて美観を起こさせるもの」(デザイン)を保護するものであり,商標権同様,登録が必要です。
意匠権は,商標権と異なり新規性が要件とされていますので,本事例で「いろかわのカバン」が美観を感じさせる新規性のあるカバンとして意匠登録されているときは,意匠の類否を検討すべきことになります。
具体的には,公知意匠と比較しその新規な創作部分がどこにあるか等も斟酌したうえで,取引者・需要者の注意を惹きつける部分を要部として把握し,その要部において両意匠が構成態様を共通にするか否かを観察して,全体として美観を共通にするかどうかで判断することになります。
これについても素人判断は危険ですので,専門の弁理士の意見を参考にされることをお奨めします。

5 不正競争防止法違反 ~表示・形態の保護(行為規制・非登録型)

(1)以上の商標権や意匠権が登録されていない場合に検討するのが,不正競争防止法で
す。
本事例では,「いろかわのカバン」全体の商品表示に基づいて規制できないかを検
討することになります。ここに「商品表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商
標,標章,商品の容器,包装その他の商品…を表示するもの」をいい,本事例では
「いろかわのカバン」という文字やロゴマークのほか,カバンの形態を含めた全体と
しての外観がこれにあたります(形態については後述します。)。
この場合の類否の判断も上述した商標権の場合と同様です。取引の具体的な実情に
基づき判断しますから,それぞれどのような取引形態(店頭・ネット等)で販売さ
れ,どのような広告宣伝がなされているのかといった実情も踏まえ,全体的観察によ
り判断します。商標権と同様,離隔的観察によることにもご留意ください。

(2)不正競争防止法は,要件面では登録不要ですし,効果面でも差止や信用回復措置の
ほか,刑事罰等の強力な効果が法定されている半面,要件立証はかなりハードルが高
くなっています。実務上よくあるケースと問題点を挙げると次のとおりです。
ア 商品形態が模倣(デッドコピー)された場合
この場合は,3号の「商品形態模倣行為」に基づいて警告することになります。こ
こに「商品形態」とは,「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認
識できる,商品の外部及び内部の形状並びに形状に結合した模様,色彩,光沢及び質
感」,要するに,内部も含めた見た目をいいます。また,「模倣」とは,「他人の商
品の形態に依拠して,これと実質的に同一の形態の商品を作り出すこと」をいい,意
図的に真似る点で「類似」とは区別されます。「実質的に同一」であればよく,必ず
しも完全なデッドコピーに限りません。
なお,この3号請求は,国内での販売から3年以内という期間制限があり,これがネ
ックになるケースが多いように思います。

イ 「いろかわのカバン」が全国的に「著名」である場合
この場合は,2号の「著名表示冒用行為」を検討します。「混同のおそれ」という
要件がない点は有利ですが,「著名」というためには全国的に知られている必要があ
り,関西地方で有名というだけでは足りません。その立証のハードルは相当高いた
め,次に述べる「周知表示」によるのが大半です。

ウ ア,イいずれにも該当しないが,商品表示が類似している場合
このような場合に実務上よく利用するのが,2号の「周知表示混同惹起行為」で
す。
ただ,2号請求には,「類似」だけでなく,「需要者の間に広く認識されている」
こと(周知性)や「混同を生じさせるおそれ」の立証が必要で,訴訟や仮処分を起
こす場合には証拠収集にかなりの準備が必要となります。
本事例では,「いろかわのカバン」の識別力(オリジナリティ)がポイントで,
ありふれたものであればあればあるほど立証は難しくなります。
周知性の立証方法としては,「いろかわのカバン」のシェアや売上高,当該表示
の使用期間・使用方法,宣伝広告の方法やそのための投資費用,ネットでの検索順
位,インスタグラムのフォロワー数,雑誌その他のマスメディアでとりあげられた
回数,程度,評価といった客観的データのほか,新たにアンケート調査をすること
もあります。ただ,アンケートは,立証のために新たに作った証拠ですので,質問
や対象者等をよほど工夫しないと証拠価値は期待できません。

6 著作権侵害 ~創作性ある表現の保護(権利付与・登録不要型)

(1)最後に,著作権侵害です。
著作権法は「創作」を保護する点では意匠法と同じですが,意匠権が「産業上有益
な創作」,いわばテクノロジーであるのに対し(管轄は経産省),著作権は「文化的
な創作」,いわば個性・カルチャーを保護しようとするものである点(管轄は文化
庁),および,登録は不要である点で異なります。

(2)著作権は,本事例のような「モノ」(製品)にも認められるのでしょうか[3]
著作物とは,「思想または感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美
術または音楽の範囲に属するもの」とされ,著作権法は「美術の著作物には美術工芸
品も含む」と明記していますので(著作権法第2条),モノにも著作権が成立するこ
とは争いがありません。ただ,大量に生産され実用に供される工業製品やそのデザイ
ン(いわゆる「応用美術」)については,本来,意匠権で保護されるべきで,著作権
による重畳的保護を受けるには「純粋美術」並みの高度の美的創作性を要するとすべ
きか,つまり,保護される要件が問題になっています。
平成27年4月,知財高裁が,高度の美的創作性は不要,「作成者の個性が発揮され
ているか否かを検討すべき」と判示したことから一躍この問題が注目されましたが[4],その後は,「実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上,美的観点
を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るよ
うな特性を備えていることが必要」とされており[5],伝統的な立場[6]への揺り戻し
の動きがみられます。
この流れからすると,「いろかわのカバン」が美的鑑賞の対象となり得るような特
性を備えている場合は,著作権侵害(複製権侵害または翻案権侵害,ネットで販売さ
れていた場合は公衆送信権侵害)も考えられますが,そのハードルはかなり高いと思
われます。

(3)また,著作権は,他人の著作物に「依拠」したこと,つまり模倣ないしアクセスし
たことが侵害の要件とされており,たまたま似てしまった場合には著作権侵害とはな
りません。この点は,たとえ依拠していなくても類似していれば侵害となる商標法や
意匠法(特許法も同じ。)と異なります。

7 一般不法行為による損害賠償請求

以上のいずれの要件も満たさない場合でも,自社の信用等を守るためには手をこまねいているわけにもいかない,ということもあるでしょう。
そのような場合は,民法第709条の一般不法行為に基づく損害賠償請求も考えられます(差止は原則として認められません。)。これについては,上述した商標権侵害や不正競争防止法等は一般不法行為の特則であり,特則の適用がない場合に一般法の適用があるのか,という問題がありますが,裁判例では,具体的事情のもとでこれを認めたもの[7]もあります。

8 最後に

以上のとおり,一見,模倣品と思われる場合であっても,いざ法的な強制手段をとるとなると,自社の何が侵害されたのか,保護要件は満たしているか,相手からどのような反論が予想されるか等,様々な検討課題があります。また,最近では,侵害・非侵害という法的評価だけでなく,ネット上炎上といったレピュテーションリスクにも十分に意を用いておかなければなりません。
しかし,企業経営においては,リスクはリスクとして認識しつつも,果敢にチャレンジしなければならない局面もあります。そのようなときは,私どもも皆さんと一緒に考え,実務の智慧やネットワークを提供し,少しでも皆さんのお役にたてればと祈念しておりますので,気軽にご相談いただければ幸いです。

以上


[1] https://www.meti.go.jp/policy/ipr/reports/pdf/nenji/2019/nenjihoukoku2019.pdf

[2] ちなみに,「ありふれた名」は商標登録の拒絶事由とされていますが(商標法第3条第1項第四号),使用により識別力を確保していれば(セカンダリー・ミーニング)登録可能です(同条第2項)。

[3] なお,「いろかわのカバン」というネーミング自体は思想または感情を創作的に表現したものではなく,著作権は認められません。

[4] TRIPP TRAPP事件(平成27.4.14知財高判〈最高裁HP〉)

[5] エジソンのお箸事件(平成28.10.13知財高判〈最高裁HP〉。原審は平成28.4.27東京地判〈最高裁HP〉)。なお,同事件は当事務所が担当したものです。

[6] 例えば,当事務所が担当したものとして,街路灯デザイン事件(平成12.6.6大阪地判〈最高裁HP〉)。

[7] 著作権侵害は否定しつつ,実質的にデッドコピーとみられる事案において,一連の行為が社会的に許容される限度を越えたものであって法的保護に値する利益を違法に侵害したとしたものとして,ヨミウリ・オンライン事件(平成17.10.6知財高判〈最高裁HP〉)