色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第133回 民法改正と実務対応~③債権譲渡~

2020/02/06

 民法改正の重要トピックを解説するシリーズの3回目です。今回は債権譲渡に関する改正点を取り上げます。なお、以下では、現行民法を「旧法」、改正民法を「新法」と表記します。
 
1.はじめに
 債権譲渡とは、債権の同一性を変えることなく、債権を移転することをいいます。
 ビジネスの場面では、弁済期が未到来の債権を金融機関等の第三者(譲受人)に譲渡し、譲渡人が譲受人から譲渡の対価を得ることによって、資金を調達する手段として利用されています。
 債権譲渡に関する主な改正点は、譲渡制限特約の効力の変更、異議をとどめない承諾の廃止、将来債権譲渡に関する規定の新設、債権譲渡と相殺に関する規定の新設の4点です。
 
2.譲渡制限特約
(1)現行民法の規定
  旧法は、「債権は、譲り渡すことができる。」(旧法466条1項)として債権の自由
 な譲渡を認めた上で、「前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適
 用しない。」(旧法466条2項)と続けて規定しており、債権者と債務者との間で債権
 の譲渡を禁止する特約(譲渡禁止特約[1])が締結された場合には、当該特約に違反
 した債権譲渡の効力は無効であると解されていました(物権的効力と呼ばれていま
 す)。なお、旧法466条2項但し書は「ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗
 することができない。」と定めていたところ、重過失がある場合には善意の第三者に
 含まれないとされ、特約について善意かつ無重過失(以下「善意無重過失」といいま
 す)の者に対する債権譲渡は有効、悪意又は重過失(以下「悪意重過失」といいます
 )の者に対する債権譲渡は無効とされていました。

(2)改正民法の規定
 ア 物権的効力の廃止
  債務者が譲渡制限特約(以下、単に「特約」といい、譲渡制限特約付債権を「特約付
 債権」といいます)を付するのは、弁済の相手方を固定して意図しない相手方への弁済
 を強制されることを防ぐためであるところ、かかる特約を付した債権の譲渡が無効とさ
 れることで、債権譲渡による資金調達が妨げられていると指摘されていました。
  そこで、債権譲渡による資金調達の円滑化を意図して、新法においては、特約に対す
 る主観を問わず、特約付債権の第三者への譲渡は常に有効とされました(新法466条2
 項)。
  同時に、債務者の弁済先固定の利益を保護するため、特約について悪意重過失の譲受
 人に対しては、債務者は特約を対抗して債務の履行を拒むことができ、また、譲渡人へ
 の弁済等による譲渡債権の消滅を主張できることになりました(新法466条3項)。
  ただし、預貯金債権については特則を設け、改正前と同様に悪意重過失者への譲渡を
 無効とする規律を維持しています(新法466条の5)。
  なお、私人間の合意によって実質的に差押禁止債権を作り出すことは認められるべき
 ではありませんから、特約付債権に対する強制執行をした差押債権者に対して、債務者
 が特約等を理由に履行を拒絶することはできないことが明文化されました(新法466条
 の4第1項)。他方で、特約付債権の譲渡が有効となっても、悪意重過失の譲受人の債権
 者が差し押さえたときには、当該差押債権者に譲受人以上の権利を認めるべきではない
 という理由から、債務者は当該差押債権者に対しても履行を拒絶することができること
 とされました(新法466条の4第2項)。
イ 新たな供託原因の創設
  旧法の下では、上記のとおり譲受人が特約の存在について善意無重過失か悪意重過失
 かによって債権譲渡の効力が左右されていたため、譲受人の特約に対する主観を債務者
 が知ることができないときは、債務者は債権者不確知を理由とする供託(旧法494条後
 段)ができると解されていました。
  これに対し、新法の下では、譲受人の主観にかかわらず、特約付債権の譲渡は常に有
 効となりましたので、債務者が債権者不確知を理由とする供託はできないことになりま
 す。また、新法の下でも、譲受人の主観によって債務者が有効に弁済できる相手方は異
 なり、債務者が弁済の相手方を誤るリスクは残ることとなります。
  そこで、金銭債権に限られてはいますが、新たな供託原因が創設され、特約付債権が
 譲渡された場合には、債務者は当然に供託できることになり(新法466条の2第1項)、
 譲受人のみがその還付を請求できることとされました(新法466条の2第3項)。
ウ 譲受人の保護規定
  特約について悪意重過失の譲受人に債権が譲渡された場合、上記のとおり、譲受人は
 債務者から特約を対抗されて履行を拒絶されてしまい、また、特約違反の譲渡も有効で
 ある以上、もはや債権を有しない譲渡人も債務者に対して弁済を請求することができま
 せんから、債務者に対して弁済を請求できる者が誰もいない事態に陥ってしまいます。
  そこで、このようなデッドロック状態を回避するため、譲受人は、債務者が債務を履
 行しない場合には、債務者に対し、相当期間を定めて譲渡人への履行を催告し、期間内
 に履行がないときは、債務者は譲受人に対して履行しなければならないこととされまし
 た(新法466条4項)。
  また、債務者が特約について悪意重過失の譲受人に対して履行を拒絶し、譲渡人に弁
 済した場合、譲受人は、債務者が弁済した金銭を自身に支払うよう譲渡人に対して求め
 なければならず、譲渡人の無資力のリスクを譲受人が負担することになります。
  そこで、譲渡人について破産手続開始決定があったときには、金銭債権である特約付
 債権の譲受人(第三者対抗要件を具備した者に限る)は、特約について悪意重過失であ
 っても、債務者に対して供託の請求が可能となり(新法466条の3)、請求後に債務者
 がした譲渡人に対する弁済は譲受人に対抗することができないこととされました。

(3)実務への影響
  譲受人が特約について悪意重過失の場合であっても特約付債権の譲渡が有効とされた
 ことで、譲渡人が債務者との関係で、「債権を譲渡してはならない」という債務を履行
 しなかったという点で債務不履行責任を負うのではないかという懸念が生じます。しか
 しながら、債務者は譲受人が悪意重過失の場合には譲渡人に弁済すれば良く、また、譲
 受人が善意無重過失の場合であっても、債務者は供託をすることによって債務を免れる
 ことができますので(新法466条の2)、債務者の弁済先固定の利益は十分に保護され
 ていると言えます。
  したがって、通常は、譲渡人が債務者に対し特約違反の譲渡を理由として債務不履行
 責任を負うことはないと考えられますが、債務不履行責任を負わないケースを明示する
 ことにより、債務不履行責任を追及されるリスクを避ける方法として、特約付債権を譲
 渡する際に譲受人に対して特約の存在を通知することを契約上の義務とし、これにより
 譲受人を悪意者とした場合には譲渡人は特約違反の責任を負わない旨を特約に規定して
 おくことが提案されています[2]
 
3.異議をとどめない承諾の廃止
(1)現行民法の規定
  債務者が異議をとどめないで債権の譲渡を承諾したときは、債務者は、当該債権は一
 部弁済されているなど譲渡人に対抗できた事由があっても、これをもって譲受人に対抗
 することができないとされていました(旧法468条1項)。

(2)改正民法の規定
  単に債権譲渡を認識した旨を債務者が通知しただけで抗弁を対抗できなくなる効果
 (抗弁の切断と呼ばれています)が発生する事態を債務者が予想することは困難である
 と考えられたため、異議なき承諾による抗弁切断の制度は廃止されました(新法468
 条)。

(3)実務への影響
  異議なき承諾の制度が廃止されたことにより、抗弁の切断については、抗弁を放棄す
 る旨の債務者の意思表示を要することとなり、意思表示一般の規律に従うことになりま
 した。
  すなわち、譲受人が譲渡後に債務者から抗弁を主張される事態を避けるためには、書
 面により、債務者から抗弁を放棄したことの確証を得ることが必要となります。譲受人
 の立場からすれば、包括的な抗弁放棄の意思表示を債務者から得ておきたいところです
 が、債務者の不利益の大きさを踏まえると、債務者が真意に基づいて抗弁放棄の意思表
 示をしたのかが争われるおそれがあります。包括的な抗弁放棄の意思表示の効力が一律
 に否定されるわけではありませんが、そのリスクを減らすためには、できる限り具体的
 に放棄の対象となる抗弁を特定することが必要です。
 
4.将来債権譲渡
(1)現行民法の規定
  将来債権譲渡とは、将来発生する債権を売買等によって譲渡し、又はこれを担保に供
 する目的で譲渡することをいいます。
  旧法下では、判例で将来債権譲渡が有効であることを前提とする判断が積み重ねられ
 ていましたが、将来債権譲渡に関する明文の規定はありませんでした。

(2)改正民法の規定
  将来債権譲渡が有効であることを明文化(新法466条の6)するとともに、既発生の
 債権譲渡と同様の方法によって対抗要件を具備することができる旨も明文化(新法467
 条)されました。
  また、将来債権譲渡が行われた後になってから、当該将来債権について特約が付され
 る場合がありますが、譲渡時に特約が存在しない以上、特約に対して譲受人が悪意重過
 失になる場面が存在し得ないことになります。そこで、将来債権につき、譲受人が債務
 者対抗要件を具備する時までに譲渡人と債務者とで特約を締結したときは、譲受人がそ
 のことを知っていたものとみなすことになりました(新法466条の6第3項)。
  すなわち、債務者対抗要件具備前に特約が締結された場合には、債務者は譲受人に対
 して特約を対抗して履行を拒絶することができる一方で、債務者対抗要件具備後に特約
 が締結された場合には、譲渡時には特約が存在しない以上譲受人は常に善意であり、重
 過失も問題とならないため、債務者は譲受人に対抗できないことになります。

(3)実務への影響
  将来債権譲渡については概ね判例の考え方を明文化するにとどまっていますが、将来
 債権の譲受人の立場からは、債務者対抗要件具備前に特約が締結されてしまうと、譲り
 受けた債権の履行を拒絶されてしまいますので、債務者対抗要件の具備が遅れないよう
 に注意が必要です。なお、将来債権譲渡がなされた後に将来債権を生じさせる譲渡人の
 契約上の地位が第三者に承継された場合の当該第三者と譲受人の優劣については新法で
 も明文化されず解釈に委ねられており、今後の判例・裁判例の動向を注視する必要があ
 ります。
 
5.債権譲渡と相殺
(1)現行民法の規定
  債権が譲渡された場合に、債務者は譲渡人に対して有する債権と譲渡された債権の相
 殺を譲受人に対して主張することができるかについて、旧法下で見解の対立がありまし
 た。
  すなわち、債権譲渡通知の時点において、譲渡人に対する債権が発生していたことを
 要するか、債務者が譲渡人に対して有する債権と譲渡された債権の弁済期が到来してい
 ることを要するか、これらの債権の弁済期の先後が問題となるかなどについて、明確な
 規定は設けられていませんでした。
  なお、最判昭和50年12月8日(民集29巻11号1864頁)は、債権譲渡の債務者対抗要
 件が具備される時までに債務者が自働債権を取得していれば、自働債権と受働債権の弁
 済期の先後を問わず、相殺適状になった場合には相殺を対抗することができると判示し
 ていましたが、同判例は特殊な事案についての事例判断であると評価されており、債権
 譲渡と相殺の問題一般についての最高裁の立場を明らかにしたものではないと考えられ
 ていました。

(2)改正民法の規定
  債権譲渡について債務者対抗要件が具備されるよりも前に債務者が取得した譲渡人に
 対する債権であれば、これによって譲渡された債権と相殺することができ、かつ、それ
 ぞれの債権の弁済期の先後も問わないことが明文化されました(新法469条1項)。
  また、債務者対抗要件が具備された時点より後に債務者が取得した譲渡人に対する債
 権についても、①対抗要件具備時より前の原因に基づいて生じた債権、あるいは②①の
 ほか譲受人の取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権のいずれかであ
 る場合には、その債権によって相殺できることとされました(新法469条2項)。

(3)実務への影響
  債務者対抗要件が具備された時点より後に債務者が取得した債権であって、譲受人の
 取得した債権の発生原因である契約に基づいて生じた債権によって相殺する場合(上記
 (2)②の場合)、両債権の「発生原因である契約」が同一である必要がありますが、例
 えば基本契約・個別契約方式を採用した取引を行っている場合に、別個の個別契約から
 発生した債権同士を相殺することが認められるのかなど、同一性の判断に悩む場面が出
 てくると思われます。対策としては、同一の基本契約に基づく個別契約から発生した債
 権であれば相殺できる旨を契約書上明記しておくことが考えられます。

以上

 


[1] 旧法下では、譲渡禁止特約と表現されることが一般的でしたが、新法466条1項において「譲渡制限の意思表示」と表現されましたので、本稿の新法についての解説部分では譲渡制限特約と表現しています。

[2] 「一問一答 民法(債権関係)改正」(商事法務)165頁注2

執筆者:志連 広祐

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