色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第127回 終活シリーズ Part4 妻の立場から

2019/07/17

 民法のうち相続法の分野の改正が行われ[1]、今年の7月1日から大部分が施行されました。改正のポイントの一つに配偶者の居住権を大幅に保護したことが挙げられます。そこで、財産を有する夫が死亡した後、妻がそのまま自宅に居住するためにはどのようにしたらよいかを検討してみましょう。
 方法として3種類が考えられます。
 なお、この配偶者の居住権に関する改正規定は,令和2年4月1日以後に開始した相続について適用されます。

1 配偶者居住権[2]の取得
 この権利は、夫死亡時に妻が居住していた建物について、原則として終身の間、無償で使用収益できる権利です。遺産分割ないし遺言(遺贈または死因贈与)により取得することができます。
 これまでは、妻が自宅を相続すると、その他の遺産からの取得分が少なくなり、老後の生活費に不安を感じる場合もありましたが、この権利を取得すると、その不安が軽減されます。なぜなら、この権利は建物の所有権を取得する訳ではなく、使用収益権を取得するだけですから、評価額は自宅自体の評価額よりはかなり低額となるからです。実際には、建物の時価や残存耐用年数、配偶者の平均余命などによって算出されます[3]
 ただ、居住権の評価額に応じた相続税を負担することになりますし、建物の通常の必要費である固定資産税を毎年負担しなければなりません。

2 配偶者短期居住権[4]の取得
 この権利も夫死亡時に妻が居住していた建物について無償で使用収益できる権利ですが、1の場合と異なり、法律上当然に認められるため期間が限定されています。
 夫の死亡から6か月間または遺産分割により所有者が確定するまでの期間のうち長いほうの期間、あるいは遺産分割によって所有権を取得した者から消滅請求を受けてから6か月間です。
 今後の身の振り方を考える期間(最低6か月間)は居住が保護されることになります。

3 居住用不動産の取得
 これは、居住用の不動産を夫から贈与ないし遺贈によって所有権を取得する方法です。但し、婚姻期間が20年以上必要です。
 これまでは、贈与等を受けたとしても遺産の前渡しとされて、遺産分割の際にはこの不動産を遺産の価格に加えて(持ち戻して)相続分を計算することとされていたため、妻が遺産から取得できる額は少なくなっていました。しかし、今回の改正[5]では、持ち戻し計算を行わないこととされました。従って、他の遺産から相続分に応じて取得することができるようになります。勿論、贈与ないし遺贈としての課税[6]はなされます。

4 以上のような方法の中でいずれを選ぶかは、税金や今後の負担を考慮して十分検討されるべきですが、住み慣れた自宅に今後も居住したいというのであれば、1または3の方法を選ぶべきでしょう。自宅について生前贈与を受けるか、遺贈によるか、いずれにしてもその旨の遺言を作成してもらうよう夫に働きかけることが大切ではないでしょうか。
夫の終活は妻の終活でもあるのです。

      以上


[1]  平成30年(2018年)7月6日に成立しました。

[2]  改正民法第1028条

[3]  令和元年度の税制改正において示されています。

[4]  改正民法第1037条

[5]  改正民法第903条4項

[6]  婚姻期間20年以上の夫婦間の居住用贈与不動産の贈与については、配偶者控除の制度があり(相続税法21条の6)、配偶者については相続税の軽減措置があります(相続税法19条の2)。

執筆者:中村 隆次

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