色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第124回 23条照会に関する2つの最高裁判決~最三小判平28・10・18民集70巻7号1725頁と最三小判平30・12・21裁時1715号29頁

2019/03/04

1 はじめに
 弁護士法23条の2に基づく照会(以下「23条照会」といいます。)は弁護士が証拠収集を行うに際して非常に重要な手段であり,弁護士法において以下のとおり定められています。
 弁護士法23条の2
 ①弁護士は,受任している事件について,所属弁護士会に対し,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができる。申出があった場合において,当該弁護士会は,その申出が適当でないと認めるときは,これを拒絶することができる。
 ②弁護士会は,前項の規定による申出に基づき,公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることができる。
 この23条照会に対して,照会先が守秘義務等を根拠に報告を拒否することも一定程度存在するところ,平成30年12月21日に最高裁が照会先の報告拒否に関して一定の判断を示しました[1]
 この平成30年12月21日の判決(以下「平成30年判決」といいます。)は後述のとおり差戻後の上告審であり,本件については平成28年10月18日にも最高裁が23条照会について判断を示しているところです(以下「平成28年判決」といいます。)[2]
 読者の皆様の中には,弁護士に事件を依頼する中で23条照会を利用する方もいらっしゃる一方,企業の担当者等の立場で23条照会を受ける方もいらっしゃるかと思います。利用する側にしろ受ける側にしろ,23条照会に関与される方においては,近時の最高裁が23条照会についてどのような判断を示したのかを知っておいていただくのがよいかと思いましたので,以下では,平成28年判決と平成30年判決の内容をご紹介します。
 

2 事案と判旨
(1)事案の概要等
 Aは,株式の購入代金名目で金員を詐取されたと主張して,Bに対して不法行為に基づく損害賠償を求める訴訟を提起しました。本訴訟 において,BがAに対して損害賠償金を支払うことなどを内容とする訴訟上の和解が成立しました。
 Aの代理人弁護士は,Bに対する強制執行の準備のため,所属弁護士会である愛知県弁護士会に対して,B宛ての郵便物に係る転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所等について日本郵便株式会社(以下「日本郵便」といいます。)に23条照会をすることを申し出ました[3]。愛知県弁護士会は,同申出を適当と認めて,日本郵便に対し23条照会をしました。しかし,日本郵便は23条照会に対する報告を拒絶しました。
 そこで,愛知県弁護士会は,日本郵便に対して,主位的に,日本郵便が23条照会に対する報告を拒絶したことにより愛知県弁護士会の法律上保護される利益を侵害されたと主張して,不法行為に基づく損害賠償を求め,予備的に,日本郵便が23条照会に対する報告をする義務を負うことの確認を求めました。
本件は,第1審→控訴審→上告審(平成28年判決)→差戻後控訴審→差戻後上告審(平成30年判決)という経緯を辿りました。

(2)平成28年判決
 ア 主位的請求である不法行為に基づく損害賠償請求
 23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解されるのであり,23条照会をすることが上記の公務所又は公私の団体の利害に重大な影響を及ぼし得ることなどに鑑み,弁護士法23条の2は,上記制度の適正な運用を図るために,照会権限を弁護士会に付与し,個々の弁護士の申出が上記制度の趣旨に照らして適切であるか否かの判断を当該弁護士会に委ねているものである。そうすると,弁護士会が23条照会の権限を付与されているのは飽くまで制度の適正な運用を図るためにすぎないのであって,23条照会に対する報告を受けることについて弁護士会が法律上保護される利益を有するものとは解されない。
 イ 予備的請求である報告義務確認請求
 更に審理を尽くさせる必要があるため,原審に差し戻す。

(3)平成30年判決(予備的請求である報告義務確認請求に関する判断)
 23条照会の制度は,弁護士の職務の公共性に鑑み,公務所のみならず広く公私の団体に対して広範な事項の報告を求めることができるものとして設けられたことなどからすれば,弁護士会に23条照会の相手方に対して報告を求める私法上の権利を付与したものとはいえず,23条照会に対する報告を拒絶する行為は,23条照会をした弁護士会の法律上保護される利益を侵害するものとして当該弁護士会に対する不法行為を構成することはない。これに加え,23条照会に対する報告の拒絶について制裁の定めがないこと等にも照らすと,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決が確定しても,弁護士会は,専ら当該相手方による任意の履行を期待するほかはないといえる。そして,確認の利益は,確認判決を求める法律上の利益であるところ,上記に照らせば,23条照会の相手方に報告義務があることを確認する判決の効力は,上記報告義務に関する法律上の紛争の解決に資するものとはいえないから,23条照会をした弁護士会に,上記判決を求める法律上の利益はないというべきである。本件確認請求を認容する判決がされれば上告人が報告義務を任意に履行することが期待できることなどの原審の指摘する事情は,いずれも判決の効力と異なる事実上の影響にすぎず,上記の判断を左右するものではない。
 

3 検討
 最高裁は,「23条照会を受けた公務所又は公私の団体は,正当な理由がない限り,照会された事項について報告をすべきものと解される。」(平成28年判決)として,23条照会に対する報告義務を明示的に認めた一方,報告拒否に対する損賠賠償請求(平成28年判決)及び報告義務の確認請求(平成30年判決)をいずれも排斥したため,報告拒否 に対して弁護士会が司法上の救済を求めることはできないことが明らかとなりました[4]
 23条照会に対する報告義務の性質については,公法上の義務であるとする裁判例が複数ありましたが[5],平成30年判決は確認の利益なしとしてその訴えを却下したため,報告義務の性質を明言していません。ただ,平成30年判決は23条照会についてあえて弁護士の職務の公共性に言及した上で私法上の権利を付与したものとはいえない旨を判示していることからすれば,公法上の義務であるとする裁判例と軌を一にしていると理解することは可能と考えます[6]

4 23照会への対応
(1)23条照会を利用する側にとって
 弁護士の証拠収集手段は,23条照会の他にも調査嘱託(民事訴訟法186条),文書送付嘱託(同226条),文書提出命令(同220条),証拠保全(同234条)の他行政機関に対する各種情報開示等が存在します。このような証拠収集手段の中で,23条照会は,相手方に知られることなく証拠収集が可能である点及び照会先が「公務所又は公私の団体」と幅広い点の2つにおいて,大変重要な証拠収集手段であることは疑いの余地がありません。いかなる照会によってどのような証拠を入手することができるかというノウハウはある程度蓄積されているため,弁護士と相談しながら23条照会の利用可能性を念頭において事件処理を進めるのがよいかと思います。

(2)23照会を受ける側にとって
 23条照会を受ける側にとっては,ある日突然書面が送られてきて,場合によっては相応の時間・労力・費用をかけて報告しなければならないという点で多大な負担感を伴うものであることは間違いありません。しかし,最高裁でも23条照会に対する報告義務が明示的に認められている以上,(たとえ弁護士会が司法上の救済を求めることができないとしても),理由なく報告を拒否することは避けなければならないと考えます[7]
 一方,報告の内容が第三者の高度なプライバシーに関するものである場合等には,回答を拒否せざるを得ない場合もあるかと思います。回答を拒否する理由として正当か否かはケースバイケースですので,その都度弁護士に相談するのがよいかと思います。

 


[1] 最三小判平30・12・21裁時1715号29頁

[2] 最三小判平28・10・18民集70巻7号1725頁

[3] 愛知県弁護士会の主張等によれば,Bは和解金を支払わず,住民票は移さないまま所在不明となったため,日本郵便に対して上記の23条照会をすることになったようです。

[4] 平成28年判決の岡部喜代子裁判官の補足意見では,正当な理由のない報告義務違反に対して依頼者との関係で不法行為が成立する可能性が示唆されています。

[5] 名古屋高判平29・6・30金法2078号68頁(本件の差戻後控訴審判決)
名古屋高判平27・2・26判時2256号11頁(本件の控訴審判決)
東京高判平22・9・29判タ1356号227頁
大阪公判平19・1・30判時1962号78頁

[6] 平成28年判決の岡部喜代子裁判官の補足意見では,公法上の義務である旨が示されています。

[7] 注4記載のとおり,正当な理由のない報告義務違反に対して依頼者との関係で不法行為が成立するおそれも念頭に置く必要があります。

執筆者:有岡 一大

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