色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第120回 空家の管理について

2018/10/04

 先日、台風21号が近畿地方を直撃し、各地に多大な損害をもたらしました。近隣の間で、瓦が飛んだり、庭にある木が倒れたりして生じた損害の負担について話し合われるケースもよくあるようです。ただ、被害をもたらした近隣の家が空家である場合、話合いによる解決は容易ではありません。このような場合、誰にどのような責任を求めることができるのでしょうか。

 民法(717条1項ただし書)によれば、建物等の土地の工作物の所有者は、工作物の占有者が損害賠償責任を負わないとき、設置又は保存に瑕疵がある限り、過失の有無に関係なく、損害賠償責任を負うとされています。空家については、占有者がいないでしょうから、その所有者が責任を問われることになります。空家の設置又は保存の瑕疵に基づき被害を受けたとして、その所有者に対し、損害賠償を求めることになるでしょう。

 未だ被害が発生していなくても、空家が放置され、倒壊するおそれがあるなど危険な状態になっていて、近いうちに被害の発生が予想されることがあります。大きな台風がたびたび直撃する地域や冬場に積雪量が多い地域などでは、早急な対応が必要であることもあるでしょう。そのような場合には、自らの建物所有権に基づき、空家の所有者に対し、空家からの被害が生じないよう、必要な措置を講ずるよう請求することが考えられます(民法199条)。

 また、平成27年5月に施行された空家等対策の推進に関する特別措置法(以下、「空家特措法」といいます。)は、空家等が防災、衛生、景観等の地域住民の生活環境に深刻な影響を及ぼしていることに鑑み、地域住民の生命、身体又は財産を保護し、その生活環境の保全を図ることを目的として制定されており、近隣関係のトラブルを未然に防ぐような規定も設けられています。

 空家特措法によれば、空家等のうち、①そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態、②著しく衛生上有害となるおそれのある状態、③適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態、④周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態にあると認められる空家等は、「特定空家」とされます(2条2項)。そして、市町村長は、「特定空家」に認定された空家等の所有者等に対し、特定空家の除却、修繕、立木竹の伐採その他周辺の生活環境の保全を図るために必要な措置をとるよう助言又は指導をすることができ(14条1項)、その後所有者等が助言指導に従わないときには、勧告・命令を経て、行政代執行をすることができます(14条9項)。また、勧告がされると、その敷地について、地方税法上の固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外されるため、固定資産税の負担増加という法的効果が生じますので、特定空家の除去に向けたインセンティブが働くことになります。このように空家特措法に基づく自治体の措置を通じ、空家の所有者に適切な管理を促し、放置を防ぐことが期待できます。

 そのほかにも、条例を定めて、「特定空家」に当たらないまでも、管理不全の状態にある空家等に関し、助言又は指導、勧告を経て、空家等の所在地、所有者等の氏名や住所等を公表するといった対策を講じている自治体もあります。

 空家による被害を未然に防ぐため、自治体との情報共有や連携を図っていくことも効果的であるかもしれません。

 空家特措法の成立の背景には、近年、空家が増加し、空家に関するトラブルが放置できないほどのレベルにまで増えてきたことがあるのでしょう。その多くは、相続が絡むケースです。田舎の土地建物を相続したものの、住むことができず、売ることも難しく、やむなく放置してしまうというケースや、相続放棄が順次され、ほとんど付き合いがなかった故人の相続人となり、土地建物を相続した意識が希薄なケース、遺産分割協議が長期化し、その間相続財産である土地建物が放置されているケースなどが増加しているようです。相続により空家の所有者となった場合には、自ら取得した場合と比較すると、管理意欲が薄く、ついつい放置しがちになる傾向がありますが、不動産の所有者としての責任は変わりません。適切な管理をしていないと、台風や地震などの災害時等に問題が顕在化し、思わぬ損害賠償責任を負うことにもなりかねませんので、注意が必要です。

 今後も空家は増加していくとみられ、関連して生じる問題への対策はますます重要となってきます。最近では、空家の活用や空家の所有者支援など、空家に関わるNPO法人や民間組織も増えています。以前は、空家は個人対個人の問題であり自治体は関与すべきではないとの考えもありましたが、空家特措法で空家等の適切な管理を促進するために「情報の提供、助言その他必要な援助を行うよう努めるものとする」(12条)等とされたこともあり、自治体においても空家に関する対応を迫られることが増加しています。私は、任期付非常勤職員として自治体内の法律相談を担当していますが、空家に関する相談を受けることも珍しくありません。

 もっとも、空家対策の第一歩は、できるだけ空家の発生を防止するという点にあると考えられ、この観点からは、不動産の所有者自身が、将来自らが管理できなくなった場合の不動産の処理について、早めに検討・準備しておくことが大切です。そして、空家の所有者となった場合には、放置しておくと、思わぬ危険を生じさせることがあることを自覚し、管理するよう心がけておくべきであり、自治体が市民のそういった意識を醸成することが、トラブルを未然に防ぎ、結果として自らを守ることにもつながるといえそうです。

以上

執筆者:高坂 佳詩子

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