色川法律事務所Irokawa Law Office

法律コラム

第117回 同一労働同一賃金に関する最高裁判決について (ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件)

2018/07/13

 平成30年6月1日、同一労働同一賃金に関し、会社の賃金制度の設計に影響を与えうる2つの重要な最高裁判例が出ました。

 以下では、簡単に2つの事案について紹介したうえで、今後の実務対応について述べたいと思います。

1.ハマキョウレックス事件(平成28年(受)第2099号、第2100号 未払賃金等支払請求事件)

 ハマキョウレックス事件は、期間の定めのある労働契約(以下「有期労働契約」といいます)を締結してY社において勤務しているXが、期間の定めのない労働契約(以下「無期労働契約」といいます)を締結している正社員とXとの間で、無事故手当、作業手当、給食手当、住宅手当、皆勤手当、通勤手当(以下「本件諸手当」といいます)に格差があることは労働契約法20条に違反するなどとして、正社員に支給された本件諸手当との差額の支払等を求めた事案です。

 第1審(大津地方裁判所彦根支部平成27年(ワ)第163号 平成27年9月16日判決)では、本件諸手当のうち通勤手当についてのみ労働契約法20条違反を認め、通勤手当の不支給による差額分について不法行為に基づく損害賠償を認めましたが、通勤手当以外の本件諸手当については、労働契約法20条に違反しないと判示しました。

 第2審(大阪高等裁判所平成27年(ネ)第3037号 平成28年7月26日判決)では、本件諸手当のうち、無事故手当、作業手当、給食手当及び通勤手当について労働契約法20条違反を認め、これらの手当の不支給による差額分について不法行為に基づく損害賠償を認めましたが、住宅手当及び皆勤手当については、労働契約法20条に違反しないと判示しました。

 これに対し、最高裁は、労働契約法20条の趣旨について「有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違が有り得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情(以下『職務の内容等』という。)を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」としたうえで、「同条にいう『不合理と認められるもの』とは、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理であると評価することができるものであることをいうと解するのは相当である」として本件諸手当の不合理性の有無を検討し、本件諸手当のうち、無事故手当、作業手当、給食手当、通勤手当及び皆勤手当について労働契約法20条違反を認め、これらの手当の不支給による差額分について不法行為に基づく損害賠償を認めましたが、住宅手当についてのみ、労働契約法20条に違反しないと判示しました。

大津地裁彦根支部 大阪高裁 最高裁
無事故手当 × ×
作業手当 × ×
給食手当 × ×
住宅手当
皆勤手当 ×
通勤手当 × × ×

○…適法  ×…労契法20条違反

 

2.長澤運輸事件(平成29年(受)第442号地位確認等請求事件)[1]

 長澤運輸事件は、A社を定年退職した後に、定年前と比べて賃金が減額された有期労働契約をA社と締結して就労しているBらが、無期労働契約をA社と締結している正社員と職務の種類や勤務時間等は同じであるのに賃金に差があるのは労働契約法20条に違反するなどと主張して、A社に対し、正社員との賃金の差額の支払等を求めた事案です。

 第1審(東京地方裁判所平成26年(ワ)第27214号、第31727号 平成28年5月13日判決)は、Bらと正社員との間に職務の内容等に差がなく、定年の前後で職務遂行能力に有意な差はないことなどからすると、定年の前後で賃金に差を設けることはこれを正当とすべき特段の事情がない限り不合理であるとしたうえで、定年後再雇用においては職務の内容等が変わらなくとも賃金だけを引き下げることが広く行われているとか、社会通念上相当なものとして広く受け入れられているとは認められないなどとして、正社員と賃金に差を設けることは労働契約法20条に違反するとして、原告の請求を全て認めました。

 他方、第2審(東京高等裁判所平成28年(ネ)第2993号 平成28年11月2日判決)は、定年後再雇用において賃金が引き下げられることが広く行われていることを前提に、我が国では広く定年制度が採用されている一方で、高年齢者の雇用確保が義務付けられており、賃金コストの無制限な増大を回避する必要があること、高年齢者には各種の公的給付もあることなどからすると、賃金を引き下げることそれ自体は不合理とはいえず、A社における賃金の引き下げ幅は同規模の企業の賃金減少幅と比較しても少ないことなどを総合考慮して、正社員と賃金に差を設けることは不合理であるとはいえないとして、原告の請求を全て棄却しました。

 これに対し、最高裁は、「有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」であるとしたうえで、Bらが問題としていた個々の賃金項目ごとに不合理性を検討し、精勤手当及び超勤手当(時間外手当)について労働契約法20条違反を認め、これらの手当の不支給による差額分について不法行為に基づく損害賠償を認めましたが、能率給、職務給、住宅手当、家族手当、役付手当及び賞与については、労働契約法20条に違反しないと判示しました。

 長澤運輸事件では、第1審及び第2審が有期契約労働者と無期契約労働者の賃金の総額を比較して不合理性の有無を判断していたのに対し、最高裁は、個々の賃金項目ごとに不合理性を判断しました。もっとも、最高裁も個々の賃金項目について完全に区別して判断した訳ではなく、能率給及び職務給については基本給及び歩合給といった能率給及び職務給に代替する賃金項目との関係についても考慮しているほか、賞与については賃金総額の減少幅が少ないことなども考慮するなどしています。

東京地裁 東京高裁 最高裁
全体として ×
能率給  

 

 

 

 

 

職務給
精勤手当 ×
住宅手当
家族手当
超勤手当 ×
役付手当
賞与

○…適法  ×…労契法20条違反

 

3.実務に与える影響

(1)ハマキョウレックス事件では、いずれも定年前の現役世代[2]の正社員(無期契約労働者)と契約社員(有期契約労働者)との間の労働条件の相違が問題になった事案について、最高裁は、住宅手当を除く本件諸手当について、労働契約法20条に違反する不合理な相違であると認めました。これは企業にとっては非常に厳しい判決であり、早急に、「不合理な相違」とならないように、労働条件を再検討する必要があります。

 労働条件を再検討するにあたっては、自社の正社員(無期契約労働者であることを前提とします。以下同じ)と非正社員(有期契約労働者であることを前提とします。以下同じ)との労働条件を比較し、労働条件に相違のある賃金項目については、当該相違がいかなる趣旨・目的によるのかを整理し、それが、厚労省の「同一労働同一賃金ガイドライン案[3][4]」などに照らして不合理と認められる恐れがないか確認したうえで、不合理と認められる恐れがある賃金項目については、非正規社員にも当該賃金項目を認めるなどの対応が必要となります[5][6]

 なお、労働契約法20条は、厳密には、「均等待遇」を定めたものではなく(したがって、正社員と非正社員の待遇が同一でなければならない訳ではなく)、正社員と非正社員との「均衡待遇」(正社員と非正社員との間に待遇差が存在することを前提として、当該待遇差が不合理なものであってはならない)を定めたものであることには注意が必要です。最高裁も、ハマキョウレックス事件判決において、「同条は、有期契約労働者と無期契約労働者との間で労働条件に相違があり得ることを前提に、職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、その相違が不合理と認められるものであってはならないとするものであり、職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた処遇を求める規定である」と判示しています。

 実際に、日本郵便事件(東京地方裁判所平成26年(ワ)第11271号 平成29年9月14日判決)では、住居手当等について、正社員の長期雇用への動機付けという観点から、正社員と非正社員とで金額に差を設けることを許容しています。

 したがって、正社員と非正社員との労働条件については、必ずしも同一にしなければならない訳ではなく、賃金項目によっては、金額に差を設けることも許容されると考えられます。

(2)また、長澤運輸事件は、現役世代の正社員(無期契約労働者)と定年後再雇用の嘱託社員(有期契約労働者)との間の労働条件の相違が問題になった事案であり、ハマキョウレックス事件とは比較対象が異なることから、同じ賃金項目であっても、最高裁は異なる考慮をしています。

 例えば、住宅手当の相違については、いずれの事件でも不合理ではないと判断しましたが、ハマキョウレックス事件では、正社員は転居を伴う配転が予定されており住宅費用が多額になり得るのに対し、非正社員はそのような配転が予定されていないことから不合理な相違ではないと判断しましたが、長澤運輸事件では、正社員も嘱託社員も職務変更の範囲は同じであることを前提に、現役世代については幅広い年代の労働者が存在するため住宅費のような生活費を補助することに相応の理由があるが、嘱託社員は老齢厚生年金の支給を受けたりA社から調整給を支給されることになっていたことからすると、正社員に対してのみ住宅手当を支給することは不合理ではないと判断しました。

 このように、最高裁は、現役世代の正社員(無期契約労働者)と定年後再雇用の嘱託社員(有期契約労働者)との間の労働条件の相違については、いずれも現役世代の正社員(無期契約労働者)と非正社員(有期契約労働者)との間の労働条件の相違の場合とは、区別して考えていると思われます。

 定年後再雇用者の労働条件についても、長澤運輸事件の最高裁判例を踏まえて再検討する必要があります。定年後再雇用者について労働契約法20条違反が問題とされうる場面としては、定年前と職務内容が同じであるのに賃金のみが引き下げられたという場合ですので、簡便な対処方法としては、定年前後で職務内容や責任の程度などをはっきりと分かる程度に変更することが考えられます。もっとも、そのように異なる仕事を用意することが容易ではない場合には、長澤運輸事件判決や同一労働同一賃金ガイドライン案などに照らして、不合理な相違と認められる恐れがないか確認したうえで、不合理と認められる恐れがある賃金項目については、定年後再雇用者にも当該賃金項目を認めるなどの対応が必要となります。

 

4.最後に

 同一労働同一賃金をめぐっては、平成30年6月29日に働き方改革関連法が成立したほか、労働契約法20条違反が争点となっている訴訟が全国各地で提起されており、今後、事例が集積していくことが予想されます。状況は目まぐるしく変化していますので、注意深く観察していく必要があります。

以上


[1] 長澤運輸事件につきましては、夏住弁護士の法律コラムもご参照下さい。

第91回 「長澤運輸」事件地裁・高裁判決について

[2] ここでは、定年前(60歳まで)の従業員という意味で使用しています。

[3]https://www.kantei.go.jp/jp/singi/hatarakikata/dai5/siryou3.pdf

[4] ガイドライン案では、一般的な各賃金項目ごとに問題となる例と問題とならない例が整理されていますが、個別の賃金項目が不合理と認められる恐れがあるかどうかは、当事務所までご相談ください。

[5]労働条件の再検討といえば、日本郵政が、それまで正社員のみに支給していた「年始勤務手当」を非正社員にも支給する一方、正社員に対してそれまで支給していた住居手当を一部の正社員について廃止したこと等が話題となりました。日本郵政をめぐっては、正社員と非正社員との労働条件の格差が労働契約法20条に違反するという内容の判決が東京地裁及び大阪地裁で立て続けに出されているところ、非正規社員の人数も非常に多いことなどから、正社員と非正社員の労働条件の格差を是正するために、上記のような対応を取らざるを得なかったものと思われます。

[6] なお、日本郵政は、同一労働同一賃金とすることが目的であることを否定しています。

執筆者:伊藤 敬之

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