第115回 終活シリーズ Part2 遺産等の整理
2018/04/01
遺産を相続するのは、配偶者は別として、子供らというのが一般的です。
しかし、子供だからといって親の財産の内容を詳細に認識しているとは限りません。まして、別居していればなおさらです。
そこで、終活するに当たって、遺産としてどのようなものがどこにあるのか、その権利関係の書類や通帳などがどこに仕舞ってあるのか、これらを整理し、相続人に明らかにしておく必要があります。
遺言を作成する場合には、遺産の内容を記載[1]することになるため、遺産全体が明らかとなりますが、その関係資料がどこにあるかまで記載している例は少ないのが現状です。不動産は法務局などで確認できるためあまり問題とはなりませんが、預貯金であっても、最近は通帳がないものも多く、インターネットで取引するものもあります。
そこで、よく問題となるケースを取り上げてみましょう。
1 貸金庫
遺産分割の調停などで、「貸金庫があったはずである。その貸金庫に財産があるのではないか。」と指摘されることは多いのですが、銀行や支店名について相続人が知らないということが結構あります。通常は、預金口座から貸金庫の使用料が引き落とされるため、通帳を見れば明らかになりますが、やはり、銀行名、支店名、印鑑や鍵の在処、暗証番号などについて、明らかにしておくことが望ましいと思います。
レンタル倉庫やトランクルームについても同様です。
2 インターネット取引
通常、預貯金は通帳が作成されるためその所在は明らかとなりますが、最近ではネット銀行との取引を行うことも多く、その場合、通帳は作成されません。また、パソコンやスマホで取引を行うことも多く、その場合にはIDやパスワードが必要となります。さらに、秘密の質問と回答を取引開始当初に設定し、その回答が一致しないとログインできないとされているところもありますし、指紋認証や顔認証[2]でログインするものもあります。このような場合には、ID,パスワードだけではなく、質問に対する回答まで相続人が知らないと預金の残高が判明しないことにもなりかねません。また、ワンタイムパスワードカードが使用されるケースもありますし、数回パスワードを間違うと、そのパスワードが使えなくなる設定も多いですから、要注意です。
このようなことは、預貯金だけではなく、保険や証券その他の金融取引、クレジットカードや電子マネー、各種ポイントカード取引などにおいても同様です。
3 パソコンやスマホなど
前記のような金融取引だけではなく、いろいろなデータや資料などをパソコンなどに整理・保存しておられる方も多いと思います。相続人が死亡通知を出そうとしても、住所録がパソコン内にあれば、被相続人の友人や知人の住所すら判明しないということにもなりかねません。このような場合、通常、パソコン等にログインするためのユーザー名とパスワードが必要です。また、パソコン内のフォルダーや文書等に、IDやパスワードが付されていれば、それぞれのIDやパスワードが判明しないと、文書等を開けないことになります。このように考えると、IDやパスワードだけでもかなりの数になります。
他に、基礎年金番号やマイナンバーなども、相続人に明らかにしたほうがよいと思います。
4 各種会費
被相続人がいろいろな組織等の会員になっている場合、その組織に死亡通知がなされないと、会費等がそれまでどおり継続して引き落とされることがあります。したがって、自己がどのような組織に属しているかも明らかにしておくことが望ましいと思います。
5 事業等の処理
事業主が死亡すれば、事業に関する公務所に対する各種廃業届や準確定申告[3]、相続税の申告[4]等が必要となります。そのためには、これらに関する各種資料なども必要となり、その所在等も明らかにすべきです。
6 不動産の名義処理
不動産の登記名義が先代のままであるということが結構あります。このような場合、名義をご自身に移転しておくことが必要です。手続としては、先代の遺産分割協議書に先代の相続人全員の印鑑をもらうことになりますが、さらに相続が発生していると大変な労力を要することになりますし、任意に押印を得られなければ、訴訟の提起も必要となります。ですから、名義の移転がなされていない不動産を所有している場合には、その処理を終えることも大事です。
7 負債
財産というとプラスの財産を考えがちですが、マイナスの財産、即ち負債も相続人が承継することになります。したがって、借入金や各種ローンなどの他、他人の保証債務なども、各契約書とともに明らかにしておくべきです。
いずれにしても、後々相続人に迷惑を掛けないように、以下のような財産について、1冊のノートにでもまとめておかれたらいかがでしょうか。
不動産や借地権等、預貯金等、その他の金銭債権、現金、生命保険や共済契約、ゴルフ会員権やその他の施設の会員権、死亡退職金、株式や投資信託、国債や社債、各種出資金、年金、貸付金等、クレジットカード、電子マネーなど、動産類・書画骨董、債務・借入金・ローンなど
また、遺産とまではいえませんが、相続人が一番整理に困るのが写真や手紙などを含む遺品の整理です。残すか、処分するかは、ご自身が一番お分かりのはずです。遺産の整理とともに、不要品の断捨離もお勧め致します。
以上
[1] 平成30年3月13日閣議決定された相続に関する民法改正案によると、自筆証書遺言の財産目録は自署でなくともよいとされているため、パソコン等で作成することが可能となりそうです。
[2] 指紋認証や顔認証の場合でも、変更や無効とする場合にはIDやパスワードは必要とされているようです。
[3] 死亡日の翌日から4か月以内に、(準)確定申告書を提出する必要があります。
[4] 原則として、申告期限は、死亡日の翌日から10か月以内です。
執筆者:中村 隆次